壁が硬い
踏み入れた先で、さきほど倒れた椅子の棒材を見てみると、それは両刃のついた鈍く輝く細い剣だった。
隣で倒れず残る椅子も見てみると、とても座れそうに無い。
椅子の形はしているが、それは地面に突き刺さる刀剣の塊でしかなかった。
「ぬみなん、ひんひん!」
よそ見するなと髪の毛を引っ張られる。ちょっと痛い。地味に痛い。
「わかったから、ちょっと待って」
髪の毛をまた引っ張られないように頭の上に載せられているさっき悪さした手を握っておく。
握りつつ「それ?」と、崩れた壁を指差し歩み寄る。
「とぉ〜りぃお〜」
ん?ちょっとわからなかったが、ここを掘ってほしいみたい。
なんで掘ってほしいのか、理由のところがイマイチ掴めなかった。
別に掘る理由がわからなくとも掘らないことも無い。
ご飯貰ったし。
ようし、掘るぞう。と、壁に手をつき込もうとするが硬〜い。
全然掘れない。爪すら刺さらない。
「なうぅゔ〜」
ツンツンしている腕の袖を引っ張りつつ、目線を下に向けている。
そこには崩れ落ちた壁と一緒に地面に散乱した剥き出しの刃が十数振り。
「これを使っていいの?」
彼女に目を向けると、じっとこちらを見つめていた。
見つめ合っていると目をパチパチしだす。了承って意味ね。おけおけ。
地面に突き立っていたり転がっている奴を物色。
ひとつめ、持ち手が無い。危ない。
ふたつめ、こっちも無い。
パッと他のも見渡すと、拵えのあるものは一つたりともなさそう。
立ち上がり、周囲の壁だか天井だかに近寄り、歩いて見回してみる。
薄暗くてしっかりとは見えずに、反射光で刀剣だと思っていたものは刀剣で合ってはいたが、ほぼすべてのものに刀身以外のものが付属していなかった。ちらほらぼろ切れが巻かれているものがあるだけだ。
「怖くて使えない、指いっちゃう、指」
顔を左右に振り、横の壁に刺さっている刀の側で持ち手が滑って指ざんっ、イタタとジェスチャーをした。
それを眺めた後に彼女は目を伏せ、人さし指の先を下唇に当てつつ「んん〜」と少しの間唸る。
パッと顔を上げたかと思うと僕の頭をポンポンと触れ、元来た道へと飛んで行った。