仕事はとりあえずサボるん
あの頃は楽しかった。
少し硬めのふかふかした椅子
暖かな空気
心地の良い振動に、膨れていたお腹も相まって微睡みが覆いかぶさる。
そう、楽しかったのだ、あの頃
具体的には四時間前までぐらいは
「絶賛、お尻が痛いのです」
ついに何度も独り言が出てしまうほどに、自身のおしりは限界に近づいていた。
ここは車内、高速道路の上。
外は真っ暗でそろそろ明日になろうという時間。車内の明かりも消され、常夜灯の薄明かりに照らされている。
深夜長距離バスに自ら囚われてから、はや5時間が経とうとしていた。
囚われた理由は、勿論バス好きとか珍しいものではなく目的地があり、仕事で向かう先があるためだ。
新宿のバスターミナルから秋田県まで向かうために乗り込んだ。
寝ていれば着くのも楽そうで良かったし、途中で海も暗かったがチラリと見えてはしゃいだりもした。
なぜ海が見えたかはよく考えると少し謎だが。
「はぁ、はぁ、…もう10時間くらいこのままだから、おしりが二つに割れてしまうよぅ…」
はや5時間が経とうとしていた。
這々の態で窓ガラスにこめかみを引っ付け、ただ過ぎていくオレンジ色の照明灯を眺め続ける。
湿っぽい空気に汗が混ざることなくうっすらと肌をつたってゆく心地悪い感覚。
窓の振動を頭に与え続けていれば精神の安定は計れども、このままじっとしていても痛いだけ。ならばせめて眠ることで僅かな救いを求めんと、目を閉じおとなしくすることにした。
30秒経過。
「ん〜〜」
声を小さくあげて周囲の煩さを自分の音で誤魔化し精神の安寧を求める。
45秒経過。
「ぬぅぅん… すぅ〜 」
1分と経たずに寝息が聞こえてきた。さっきまでの様子が嘘だったかのようだ。
けれども訴えていた臀部、その痛みはやはり本物で次第に見始めた夢に色濃く影響がでてくることになった。
「どうにか、こうにかなりませんか?」
辺りは火山帯の様な熱気が充満し、空からは雨粒がポツポツ降ってきて、肌にあたる風が心地悪い。
視界には一面の大空、ここは空中。爽快感は薄い。
「いいですよ、どうあって欲しいのか言ってごらんなさい」
面差しは可愛げのある肌の浅黒い、すごい美人という印象は持たなかったが落ち着く可愛い女性と話している真っ最中に現在の有り様を認識した。
すっぱりとした途中からではなく、いつからこうなっていたのか違和感を感じないほどにすんなりと。
「お尻が痛いのです。背をピンとして平らな地面で清々しく眠りたいのです」
「わかりました、そうあるように致しましょう」
「あ!あと、寝汗で気持ち悪いのでパンツも新品にして欲しいのです!」
「うふふ、はい、そうあるように致しましょう」
「やったー!ありがとうございまーす!」
「ええ、ではまたね」
その言葉の後すぐに気持ちの良い風が一陣通り過ぎ、肌を取り巻く気持ちの悪さがスッキリと晴れた。熱気も小雨も過ぎ去り、替わりに豊かな新緑の香りがした。
はじめて投稿してみます。
楽しくなるよう書きたいです。