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大遅刻

作者: 李雨

なんとなく、いろいろなものに詰まって息抜きに書きました。

とある夜中、私はある夢を見てびっくりして飛び起きました。


なんてこと!


その夢を皮切りにいろんなことを思い出しました、そう、私は転生者です。

一人っ子で女子大生だった私は、列車事故で死んだ後、このゲームの世界に似た世界に転生したのです。


「・・・どうしましょう」


口から出るのは溜息ばかりです。


だって・・・


「どうしたんだい? トーコ?」

隣から眠りから覚めた旦那様の声が聞こえます。

「な・・何でもないの。ちょっと夢を見てしまって」

慌てて取り繕う私を見て、旦那様はゆっくりと微笑みました。

「悪い夢? 君は僕が守ってあげるよ」

腕を広げて「おいで」と呼ぶその胸の中へそっと寄り添いました。

「ええ、ありがとう」

そう言いながら、頭の中は違うことを考えます。


だって・・・


私、『旧姓:二階堂塔子』は、そこからもわかる通り、既婚者なのです!

そして、その仰々しい名前からわかるでしょうが、私が女子大生の前世でしていたゲームの中ではヒロインのライバルキャラだったのです!!


どうしましょう、このあらゆるイベントを寝過ごしたような状態・・・


ヒロイン、ごめん、私、完璧に寝過ごしました。遅刻です。大遅刻です。

ライバルのいない『ライバルと争う乙女ゲー』って、どんだけ・・・。


旦那様をそっと胸の中から見上げます。

・・・うん、この方、たしか第3攻略対象よ・・ね?

ユーリ=シュナイザー。

私、無意識にいい仕事したんでしょうか?

いや、違った気がします。


過去を一生懸命思い出してみます。


確か、最初のイベントは・・・入学式でヒロインとあいさつした後の第一攻略キャラにぶつかってしまって喧嘩するところから・・・のはずが、確か、靴箱でコンタクトを落としたっていう生徒のために皆に声をかけてコンタクトを探しててタイミングがずれたのでした。

その次からは、そのキャラに会っても、喧嘩するほど怒り狂うこともなかったから、必然、おとなしい子で目立たなく過ぎた気がする。

第2攻略キャラはどうだったかしら?

確か、美術部の部長で、何かの賞をとるためにモデルをしなきゃいけなかったんだわ。

そのための最初の出会い、「お昼のお弁当を食べるはずの屋上の扉が鍵がかかっててはいれないから、誰もいない美術部室へ移動」が、確か一回も屋上の扉が閉まっていたことがなかったような??

第4攻略キャラの野球部キャプテンは、帰り道で酔っ払いに絡まれる私を助けて知り合うはずが・・・

私、酔っ払いに絡まれたことなんて一度もなかったわ?

もしかして、私って不細工だったのかしら・・・?

第5攻略キャラの生徒会長は、一緒に生徒会で頑張るはずが、私、クラスでは推薦されたけど選挙に落ちたのよね・・・。ふがいないヤツで済みません。。

第6攻略キャラの化学の先生は、確か、1学期のうちに生徒の盗撮がばれて学校をやめさせられたし。

第3攻略キャラの旦那様にしても、私が掃除のときに黒板消しを窓から落として、下を通りかかったこの方にぶつけてしまうはずだったのに、そんなイベントはなかった・・・はず。

黒板消しは確かに何度か落としたことがあったけど、誰も下を通ってなくて、慌てて拾いにいったもの。


はぁ~と溜息をもらすと、まだ寝ていなかったのか旦那様が「どうしたの?」と聞いてきます。

「ちょっと、高校の時を夢に見てしまって、いろいろと思い出してましたの」

正直に答えました。

「ねぇ? 小桜花蓮さんはどうしてらっしゃるかしら」

ヒロインの名前が口から滑り出してしまいました。

「ん? 彼女と仲よかった?」

「いえ、それほどは。でも、あの頃、あの方、おモテになってらしたから、どなたかとご一緒になられたのかしら、と・・・」

「うーん、彼女は『噂多き恋乙女』だったからねぇ」

最初に選ばれてもいないのに生徒会室に入り浸って生徒会長と付き合っていたかと思えば、その後、美術室でモデルをした縁で部長と付き合い始めたり、野球部にいきなり現れてキャプテンの投球を打ち返したことから野球部のキャプテンと付き合っていた時期があったり、まぁ二股ではなかったけど男の噂は途絶えたことがなかったよね・・・と旦那様がおっしゃいます。

そう言われれば、彼女はいろんな校内の有名人とお付き合いをしていたように思います。


・・・あれって、攻略して、キャラチェンジしてたってことかしら・・・?


あああああ、

すみません、すみません、60年も寝過ごしたライバルですみません。


そう、私はそろそろ80歳に手が届くお年頃。

明日は一番若い孫があの学園に入学するというのに。


攻略キャラであった旦那様を知らずに得てしまって、なんとなく給料ドロボーな気分になりながらもう一度眠りにつきました。


***********


「高校のころ・・・ね」

ユーリはもう一度寝てしまった奥方を腕に抱きながら、思い出す。

自分は転生者だ。

死ぬ前、高校生だった彼は、姉がするゲームを強制的に見せられた。

もうあらすじも隠れキャラも全部暗記するくらいに。


そんな彼が、嫌がってた乙女ゲームに転生した。

それも、攻略対象として。

なんの嫌がらせだ、と思いながら成長。

彼の自覚は、3歳の時と早かったので。


そして、入学式の日、イヤイヤながらに登校することになった学園の靴箱で、彼はコンタクトを落としてしまう。

何も見えず、四つん這いになって落としたコンタクトを探す彼にかかった声。

(うわぁ、この声って、二階堂塔子じゃないか)

そう思いながらも、こいつと知り合うのはこんなイベントじゃなかった、と思い出す。

「コンタクトを落としてしまって」と言ったとたん、同じ新入生なのに、周りの子にも注意を呼び掛けて一緒に探してくれた。

結局見つからなかったので、すぐに保健室へ行き、そういうときのためにある貸出し用の眼鏡を借りたためトーコはユーリだったと気づかなかったようだ。

ただ、その時の、攻略対象以外にも親切で、人のために動けて、他人に声をかけて統率できるトーコにいい感情を持った。

いや、素直に、惚れたんだと思う。

それからしばらく観察してみたが、彼女が第一攻略キャラとイベントらしきものを起こすことはなかった。

(別人?)

そうも思ってみたが、ヒロインは実在したし、コツコツと毎日攻略に励んでいるようだ。


それならば・・・

彼は生徒会に入った。

生徒会が保管している屋上の鍵を、毎日使って昼食時には屋上が使えるようにしておく。

間違っても昼食を美術部室なんかでとらせない。

美術部の部長には、ヒロインのかわいさをそれとなく伝えて、モデルになってもらうように後押しした。

彼女の帰りはそっと後をつけ、声をかけそうな酔っ払いは、声をかける前に排除した。

生徒会選挙の時には開票役になり、彼女にはいった票をひそかに燃やした。

ロリコン教師はどこに出没するかわかっていたので、彼女に惚れて更生する前に、その現場を告発してさっさと舞台から降りてもらった。


さすがライバルキャラというべきか、ちょっと気を抜くとそれらのメンバーと偶然会うことになりかねなかったため攻略対象のスケジュールを完璧に調べ上げ、極力会わない方向へ持って行った。

男がイケメンたちのスケジュールを何が嬉しくて調べなきゃいけないんだか・・・。

つまり、彼の高校生活は、彼女に立つフラグを折りまくった3年だった。

そうしつつ、自分はしっかり偶然を装って知り合い、勉強を教えると毎日会うように仕向け、いろんなチケットを用意しては「もったいないから」とデートに誘い、自分のものとしてその情報をあちこちに流した。

もともとライバルキャラだ。

攻略対象には恋愛感情を抱きやすかったらしい。

相性がいいようにできているのだろう。

そして、知り合えた攻略対象は自分のみ。

隙を見つけて遠慮なく自分のものにした。


そうして得た彼女は、年老いても なお愛らしい。

もうさすがに激しい感情や欲情はないが、執着だけはあるらしい。


できれば来世も記憶を持って生れたいですねぇ・・・口に出さずに、そう思う。

そして、さっさとトーコを見つけてまた囲い込まないと。


偶然って、重なるようだと必ずどこかに誰かの作為があると思うのです。

あるべきイベントが『偶然』全部なかった、とかありえないと思います。

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