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第五話 馬鹿貴族と戦い方

半分くらいで視点変更があります故、そんな気持ちで読んで頂けると幸いです。

 私はバルブロン・ビーダルバロン兵団長一位。大国ティエルタリアに代々伝わる由緒正しき血統の末裔であり、件のパンドラの箱対策において数少ない「駆動兵器」を任された、名誉な騎士である。その家柄の高尚さを説明すると、先々代が国王との会食に招待されたほど。自分で言うのもアレだが、超大物だ。そんな高貴な私は今、たった一人で村の裏山にある洞窟内を彷徨っていた。


 「クソッ、どうしてこんな目に…」


 村人たちの話によると、昨日失踪した村人が行方不明になってから捜索して、捜索班が唯一帰って来ていないのがこの洞窟らしい。きっとここに影が潜んでいるだろうことは村人でも考えられること。それゆえにこの私に捜索と、影の撃退を頼んだということだ。駆動兵器が使えない私は、この上なく慎重に洞窟内を捜索していた。

 思えば、駆動兵器の鍵を失くしてからというもの、不運続きだった。田舎の馬車に撥ねられて気絶するわ、大雨で食料はダメになるわ…唯一の救いは、美しいお嬢さんに救われたことか。彼女ほどの美貌であれば、私の第二夫人くらいにはふさわしいのではないだろうか。もっとも妻など一人もいないが。


 「さっさと見つけて引き上げるべきだな。影は居なかったということにしよう、そうしよう」


 私はこんなところで時間を浪費するわけにはいかんのだ。早く駆動兵器の鍵を見つけ出して、あのお嬢さんをお守りしなくては…まぁ、ついでにあのへんてこな服装の小僧も守ってやってもいい。貴族は恩を忘れたりはしないのだ。


 やがて、洞窟に突き当たりが見える。小さな洞窟だというのに、末端は崖になっているようだ。風が無いということは、他に出入り口はないのだろう。貴族は博識でもあるのだ。

 そして、その崖を覗き込むような格好の女性が見えた。


 「もし、危ないぞ君! このバルブロン・ビーダルバロン兵団長一位が来たからには、影に怯えることは無い!」


 女性に近づきながら、頼もしい言葉をかけて勇気付ける。この気遣いもまた、貴族には必要なことなのだ。

 女性はゆっくりと振り返る。なかなか端正な顔立ちをした美人ではないか。ちと田舎臭さを感じるものの、素朴な美しさが感じられる。婦人として迎え入れるならば第八婦人といったところか。彼女は立ち上がり、不安そうな顔で言った。


 「よかった…影がいて怖かったんです…」


 そう言いながら、私の胸に飛び込んでくる女性。この積極性を鑑みると、第四婦人くらいには取り立ててやってもいいかもしれない。さて、では影が来ないうちに撤退しなくては。


 「心配は無用だ。何と言っても私はティエルタリアの騎士、しかも兵団長一位だからな。さぁ、皆が心配している。戻ろうぞ」


 「え…影を倒さないんですか? 」


 コンコンと私の鎧を叩きながら言う女性。こやつ、私の鎧が駆動兵器だと見破ったか…? 中々に洞察力がある。


 「私の駆動兵器は周りを巻き込んでしまう。今はあなたの安全が大事なのだ」


 正直、自分の駆動兵器がどんなものかは知らないが。まぁ、嘘も方便ということだ。


 「へぇ、そんなにお強い駆動兵器なんですか…じゃあ、頂いちゃいますね」


 「へ…? 」


 言うが早いか、彼女の手が私の首を掴み、軽々と持ち上げた。馬鹿な、普段良い物を食べている私の身体を、片手で持ち上げるとは…


 「がっ…き、貴様…」


 「ギチギチギチ!! 普通こんなんに引っかかるかぁ!? 俺ら影は人間の中に入るってしらねーのかよ騎士さんよぉ!! 」


 し…知らなかった。完全なる油断。油断さえなければ軽くかわしてカウンターしてやったものの…彼女、いや影は私を宙ぶらりんにしたまま、崖へと近づく。


 「さぁーて、二択だぜ、騎士のおっさんよぉ」


 影は私を崖寸前まで運び、そのまま止まった。影が手を離したら、私は崖下へと真っさかさまだろう。影は続けた。


 「駆動兵器を俺に渡して消えるか、死ぬかだ」


 何を言い出すかと思えば…影も駆動兵器を欲しがるものだとは知らなんだ。どっちにしろ、このままでは窒息死してしまう。


 「フン、貴族の誇りを捨てるくらいならば、ここで末代となるも仕方なし。貴様にこの難しい言い回しが理解できるかな?」


 浮遊感が下半身を襲い、私は暗闇の中へ落ちていった。










 『怜、行くぞ! 』


 窓の外に見える、巨大な影。それは前に倒した影の三倍はあろうかという大きさで、相変わらずこちらを見て笑っていた。液状の塊に見える影は顔が無いが、笑っているように見えて不気味だった。


 「うん!! 」


 まだ戦闘慣れなどしていないが、現れたのなら仕方が無い…僕は部屋を出ようとドアに向かう。


 そこには、まだパジャマを完全に着られていないルシア。上はパジャマを着ているが、まだズボンを上げていない状態だった。


 「あ…」


 「あ…」


 『あ…』


 見る見る赤面するルシア。きっと僕も耳まで真っ赤だ。


 「 レイ様のエッチーーーー!!!!  」


 追い立てられるように逆を向き、逃げるように窓をあけ、飛び出した。


 「ごっ…ごめん!! 」


 気づいた。ここ、三階だった。勢い余って、頭が下になった状態で落ちる僕。


 「う…わぁああああああああ!!! 」


 『馬鹿者! 周囲の地形くらい把握しておけ!! 』


 どうしよう、いくら三階といえど、さすがに頭から落ちたら無事では済まない気がする。そんなことを思う間にも、地面は近づいてくる。


 『仕方が無い、実践で丁寧に教えるつもりだったが…早く加速剣を!!』


 エルピスは何か打開策を持っているらしい。僕は急いで鍵を刺し、回した。一瞬で形成される加速剣。


 「どっ…どうすればいい!? 」


 『上に向けてアクセルを!! 』


 言われるがまま、剣の切っ先を空に向け、トリガーを握りこむ。剣は勢いよく空に引っ張られ、間一髪で地面から離れた。


 「これって、どの方向にも突進出来るんだ…」


 関心する僕を、エルピスが叱る。


 『加速剣の真髄は、多方行機動による撹乱だと思ってもらっても良い。安心するのはまだ早いぞ、トリガーの微妙な加減で、推進力を抑えて着地するんだ。このままでは成層圏まで突っ切ってしまうぞ』


 さらっと器用な芸当を要求するなぁ。こっちは剣にしがみついてるだけで精一杯だというのに。何とかトリガーの握りを緩めると、剣はゆっくりと地面に近づいていき、どうにか着地出来た。


 「ごめんなさいレイ様!! まさかご自害なさるとは夢にも…」


 部屋の窓から乗り出すルシア。どうやら心配してくれているようだ。


 「こっちこそゴメン…影が見えたから反射的に…」


 そうだ、影を倒す為に外に出たんだった。影がいた方向を見ると、奴はまだこちらを見てニヤニヤと笑っている。


 『揺さぶられるなよ。村が明るいせいで入って来れないから、挑発しているんだ』


 影め、単純だと思いきや中々考えて行動しているようだ。僕は切っ先を影に定め、思いっきりアクセルをふかした。


 「一気に決めてやる!! 」


 『あっ、馬鹿!! 』


 宿屋の庭から村の入り口まで、とてつもないスピードで突っ切る僕の身体。影の頭部を狙った一撃は、影の繰り出した数本の触手によって止められてしまった。


 「え…? 」


 『避けろ!! 』


 エルピスの助言より早く、横薙ぎに振られる触手。それをまともに食らって、僕は来た方向に吹っ飛ばされた。


 「がっ…は…ぁ」


 『どこかにぶつかるとまたダメージを追うぞ! 加速剣で勢いを殺せ!! 』


 言われるまま、震える手で剣を前に突き出し、トリガーを引く。吹っ飛んでいた勢いは徐々に収まり、やがて僕は情けなく地面に落ちた。


 『うつけめ、全ての影をあれで倒せたら苦労は無いわ!! 』


 「ゲフッ…ごめん…」


 何とか立ち上がる。よし、まだ動けるようだ。


 『ふむ、てっきり闘うことを放棄すると思っていたが…』


 「…正直もうやだ。けど、僕がやらないと結局僕も死んじゃうしね」


 呼吸を整え、影を睨みつける。すると影は何かを見つけたかのように一方を見つめている。見ると、さっきの攻防で松明の一部が消えていた。影は待っていたかのように、そこに向かって走り出した。


 「しまった!! 」


 『仕方が無い…不利な状況だが、私が戦い方をレクチャーしてやろう。行け!! 』


 村に向かう影。それを追うように僕も、影に向かって加速した。


 

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