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胡蝶
春の匂い。
桜がひらひら舞う。
六人の禿を従え、華々しく道中が始まる。
林元帥の子である林総一朗が立てた手柄に、皇帝は多大な恩賞を与えた。
そして、その金で贔屓の遊女 胡蝶にこのような道中をさせたのである。
胡蝶と云えば、格式高い鏡月楼の二枚目だが病弱で殆ど座敷には上がらない。それでも、その儚さが良いとされ、舞も見事であると胡蝶の人気は増すばかり。
看板を背負っている千夜菊も、これには苦々しい表情を浮かべている。
しゃなりしゃなり。
高下駄を履いているせいもあるが、胡蝶は背が高い。
急かす男衆に、ことさらのんびりと足を進める。
紅い唇で妖艶に微笑みながら、胡蝶は全てが無事に終わることを祈っていた。