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FILE 1.謎の暗号文より謎の推理がここにはある

キーンコーン……ガガガガガガガガ!


学校での生活の一ページを終えるチャイムが鳴りました。単調ながらも、とても良い響きでした。


「おい、推理。あいつがお前にこれを渡せって」


ドアの所に、銃を手にした人がいます。おそらく剛健さんです。何をそこまで警戒しているのでしょうか?級友から渡されたのは何の変哲もない紙切れです。

携帯電話が振動しました。剛健さんからです。とても短距離通話ですね。


『受け取ったか』


変声機を使っているようで、声が濁っています。

何をそこまで警戒しているのでしょうか?


『その中には集合場所を記した暗号文が書かれている。それを解き、迅速に集合されたし』


ミステリー革命団っぽい活動ですね。

あっ! 皆様を置いてけぼりにしてしまいました。

突然ですが、詳しくはプロモーションビデオを見てください。



‡ミステリー革命団‡


渡邊異人、ぷろでゅ〜す


「ミステリー革命団……。それは読んで字の如く、ミステリーに新たなる旋風を巻き起こす、神秘のベールに包まれた革命的集団」


異人がナレーター風に解説を始めた。


「我々に迫る数々のミステリー!」



ゴウケンは勇敢にもモンスターの集団に切り込んだ。血吹雪が舞い、戦いの戦火は止む術をすでに失っていた。


『エルスフレア!』


魔道士のナギが、烈火の炎でモンスターを焼き尽くす。


『レールキャノン発射です〜』


発明家のカモメは全長50メートルはあるかという兵器をモンスターに射ち放った。モンスターが一瞬で消滅する。



「難解な事件も、団員の英知で解決!」



――とある施設。

某国家エージェントのゴウケンは谷底を見つめた。

深い闇が住む、奈落の地。


『ゴンケン! 早く逃げましょう!?』


マグナム銃で援護するナギが言った。

弾を撃ち尽くすと、迎えのヘリから降りてきた縄梯を上り始めた。


『ナタ――いや、ナギ! 君は先に行け!』


ゴウケンはナギにそう告げると、腕時計のボタンを押した。

直後に轟音。施設が爆発し始めた。

ゴウケンは施設の先端に立ち、ゆっくりと飛び降りた。



「そう。真実はいつも一つとは限らない!」



老人から放たれた電撃を、カモメは刀身が光の剣で受けとめた。


『お互いこいつで決着を着けるか!』


老人も光の剣を出し、カモメに斬り掛かる。

カモメは一撃目を受けとめ反撃に転じた。刀身が触れる度に光が揺らめく。

避けては斬り、横薙ぎの応酬。加速していく二つの光は美しい弧を描いたり、垂直に降りたり。


『はははははっ! そらっ、そらっ、もう後がないぞ!』


『あなただけは私が!』


カモメは意を決し、最後の攻撃にでた。



「素晴らしき我がミステリー革命団! 君も今すぐ入部しよう!」


協力:部員三名。近所のじいさん。エキストラ数名。



――と言うことです。

分かりましたか? 僕には全く意味が分かりません。


『尚、この通信の証拠が残らぬよう、着信履歴は末梢されたし』


それだけ言うと、剛健さんは姿を消しました。

何をそこまで警戒しているのでしょうか?

さて、暗号文とやらを見てみましょうか。


〔山田家のポチ〕


まあ、僕は凡人ですからね。おそらく部長の異人さんが考えたであろう暗号を僕が理解するのは、埋没後になるでしょう。



あれから一時間。

僕は怪文の前にして、考え倦んでいました。

山田さんってどなたですか? ポチは雑種ですか? チワワがポチという名なら、間違いなく関ケ原の戦いを超す規模の戦になりますよ。

余計なことを考えている内に時間切れのようです。

へんじ――ミステリー革命団の皆様が集合されました。


「遅いぞ、推理っちー!」


同級生の椥さんのお声です。

肩で波打つ茶髪に、ピンク色のカチューシャをお付けになられてる、とても可愛らしい御方です。

だがらと言って、僕が特別にお慕いしているという訳ではなきにしろ在らずと断言はできかねる程でもないこともありません。

隠蔽工作は終了しました。すみません。何しろ僕は凡人なものでして……。


「答えは簡単。『ポチ』って言葉を含む平凡レベルの魔術で該当するものは『スルドポチーフ』という疲労回復魔法なの。その詠唱呪文は『ブ・シツイケ』よ」


うわっ。凄いですね。人類はそうやって学生生活の中で体力を養っていたなんて。特に二、三年生の先輩方は。

ここで補足させて頂きます。椥さんは魔術や魔法などのむちゃくちゃな知識でミステリーに挑む、ファンタジー推理バカなのです。

椥さんの理論を埋めていくと、名字が『山田』なのが謎を解く鍵ですね。

しかし僕は決して『山田』は平凡ではないと思います。ただ在り来たりなのだと。


「そうだったんですか〜? 私の推理は違います〜」


ゆったり口調のこの人は先輩の鴎さんです。

おっとりとした性格で、長い黒髪に抜群のスタイルを誇る、ミステリー革命団産の天然さんです。

先輩と椥さんは元々の思考回路が違いますから、同じ意見はありえません。

それは別に頭の善し悪しではなく、


「おそらくは、ポチは収束直線座標集計装置の愛称で、由来はボタンを『ポチッとのポチ』です〜。その装置を日本国内に限定した範囲の『山田さん宅』から直線距離の中心に置いた場所が、部室なんです〜」


その由来で行くと、『ポチ』が何個も必要になりますよ。

とある親子の会話で、『お父さんー、これなあに?』と娘が聞いて『ポチ18号だよ』と答えた時の親子の笑顔を想像するだけで嫌です。まるで人造人間じゃないですか。

それとまた補足しますと、鴎さんは未来の文明器具や装置などのむちゃくちゃな知識でミステリーに挑む、SF推理バカなのです。

それにしても、お二人の推理を超越した能力には驚かされます。僕もお二人と同じく、『とりあえず』部室に行けば良かったです。


「二人とも残念ながら間違いだ」


ついに異人さんが口を開きました。金髪、眼鏡で名字が渡邊な人です。


「これは固定三次元空間座標を紙に封じたものである。だから答えはこうだ。まず偽装設置座標をティーキャスからの経路電磁式で求める。本物を座標を割り出した後は、デジタイザーの基礎電算能力を平面数式に繋ぎ止め、固定された座標を確定。そして空間自体の確立、及び本質性を見出だすために、自己算出FFT方式で固定座標と同様の作業をする。最後に物質の相互環境に於いての有為を証明するため、二つの数式の単位を同質量体の値に換算。最後に足し算をすれば、部室となる」


これは推理力より計算能力が要求されますね。

またまた補足しますと、異人さんはむちゃくちゃな計算法則や数式などでミステリーに挑む、数理学推理バカなのです。


「推理くん。君はそれでも我がミステリー革命団の一員かね」


そうではないことを切に願います。

確か僕はこの部に『入れさせられた』のだと記憶してます。それも物凄い理由で……。

それはまた別の機会がありましたら、お話します。


「では行こうか」


どこへですか? 部長。


「部室にだ。我が部に挑戦状らしき難解な暗号文が届いたのだ。私は椥くんと鴎くんの二人を連れていくので、推理くんは剛健くんと行動を共にし、部室まで来られたし」


一人で部室まで行きたいです。剛健さんにご迷惑は掛けられませんので。いや、本当に。


「剛健くんも承諾済みだ」


…………。本音を暴露してもよろしいでしょうか?



「国家エージェントともなると敵は多い。例え校内でも危険だ。気を付けろ、推理」


剛健さんは早くもノリノリで妄想中です。それと何故だか皆さんが僕を呼ぶときの発音と言いますか、ニュアンスと言いますか、とにかく何かが違う気がしてなりません。

そんな僕の思考を余所に、絶対に何の変哲も見られない廊下を壁伝いに歩きます。

剛健さん、当たり前のように銃を抜いています。お願いですので、しまってください。


「これを……」


剛健さん、当たり前のように拳銃を渡してきます。お願いですので、しまってください。

結局、押し切られ、銃を手にした僕は剛健さんの後に続きました。

数十歩ほど進んで場所で剛健さんの動きが止まりました。剛健さんの表情が強ばっています。

前方に落ちている本を静かに指差し、


「爆弾だ……」


ありえませんよ。


「ではなぜあんな場所に開いた本が逆さまで置いてある! きっと下の爆弾を隠すためだ! 人が通ると爆発するぞ!」


それは妄想だと気付いてください。貴方には本の周りを通り過ぎる一般生徒が見えないのですか?


「ならばリモコン式だ! どこか遠くから薄ら笑いを浮かべた双眼鏡男が狙ってるんだ!」


剛健さんの学生生活には、もう脱帽ですね。

プロフェッショナルな剛健さんの意見を無視して進みました。

僕が通り過ぎると、剛健さんは『狙いは俺だけか』と叫び懊悩しています。

剛健さんも大変ですね。では素人の僕は邪魔をしないよう、お先に失礼させてもらいます。

それにしても、誰も本を退けて剛健さんに安全を主張なさらないとは、冷たい世の中になりましたね。



部屋に入ると、何やら深刻です。

椥さんの思い詰めたような表情が恐いです。その内、頭に巻いた鉢巻きに蝋燭を挟んで祈祷しかねませんしね。もしかすると黒魔術の可能性もあります。

何といっても、黒魔術に黒饅頭を使用していたのには驚きました。

鴎さんは相変わらず、つい地に足が着いてるか確認してしまいそうな、おっとりぽけーっな面持ちです。


「遅かったな、推理くん。ん? 剛健くんはどうした?」


と異人さん。

僕の答えを待たずして、


「いや、皆まで言うな。彼の仕事には死が付いて回る……。家族には殉職とだけ伝えよう……」


沈痛そうに言ってます。剛健さんが異人さんに殺されました。

これは事件になりますか?


「まさしく事件だ。剛健くんを狙った組織を我々で白日の下に晒すのだ」


犯人は剛健さんの頭の中にいますね。十中八九、間違いなく。


「今はそれは置いとき、この暗号を見てくれ」


その件を意外にあっさり流すと、机の上を指差しました。

そこには鴎さんの写真と紙が一枚あります。


「この紙の暗号が難しいのよね……」


凡人の僕に解けるとは思えませんけど、一応みておきます。


〔『ぶっかひかさおくっげおん』を決定事項とする。生徒会会計 のっぺら坊より〕


嫌がらせなのか、単に暇だったのか、はっきりして欲しいですね。


「このままでは何かも分からない内に、決まってしまう。早急に暗号を解いてくれ。これは我々の名誉のためにもだ。作戦は――」


一刻を争うかは微妙ですが、考えるだけならします。

「分かりましたぁ〜」


早速、鴎さんが挙手されました。


「私の個人的な見解によりますとぉ〜、何かの呪文による繋ぎだと思います〜。ですからぁ〜、今回は椥さんの分野も関係してきます〜」


「わたしもそう思っていたとこです! 先輩、謎を解く鍵は過去と未来とを繋ぐものですっ!」


生き生き即答された椥さん。

お二人のご意見が合いましたね。これはいつにも増してパワフルな推理になりますよ。


「『ぶっかひかさおくっげおん』は旧ソ連に伝った云われている魔術連式を、その国の洋式に対応するオリジナルに変換した時の3:3:6の並び呪術です。従って『ぶっか』『ひかさ』『おくっげおん』の三種になります」



「その三種の言葉を〜、古代学語翻訳スキャナーを新世紀共通の言語モードで通しますとぉ〜、『ぶっか』がお金、『ひかさ』が野望、『おくっげおん』が生徒会となります〜」


説明します。

普段は思考回路の違いから推論の合わない人たちですが、たまに意見が合うと合体や融合をして謎を解くんです。

椥さんと鴎さんが合体すると、SFファンタジー推理ですね。

まだ目撃していませんが、最高で四人だと思います。四人の推理の合体ですか……。

その時には、世界の終わりが近いかもしれませんね。


「お金、野望、生徒会……?」


椥さんが呟いてます。次にはパッと表情に人工ライトが灯りました。


「異人先輩! これは生徒会の権限を利用した横暴を予告した文章です!」


「分かっている。実は送られてきた段階で解いていた。君たちの実力を確かめされてもらったのだよ」


僕には異人さんのやり方では、到底、事件の解決には至らないでしょう。

もちろん、お二人と他一名のでも同じです。

なんか今、他一名の剛健さんが縄を使って降りていくのが部室の窓にちらほらと。

本当に何をそこまで警戒しているのでしょうか?

まあ、『ちょっと待てえぇぇぇっ!』とか叫びながら窓を蹴破らなかっただけでも良かったです。

さて、皆さん。

ここで暗号文を、僕の凡人なりの考えで解きましょう。


『ぶっかひかさおくっげおん』


当然のことですが、これだけでは意味が分かりません。

ここで思い出してください。近くに鴎さんの写真がありましたよね?

あれは鴎さんの『おっとり』とした特徴を示したものです。つまり『お』『っ』を『取り』除けということです。


『ぶかひかさくげん』


見えてきました。

最後に手紙の差出人の名前です。


『生徒会会計 のっぺら坊より』


これだけふざけたネーミングですとバレバレですね。『のっぺら坊』には『顔』がありません。『顔無し』なのです。

『かおなし』、『か』『お』は無し。『お』はすでにありませんので、『か』を無くします。


『ぶひさくげん』


『部費削減』となります。会計さんだったのもヒントですね。

嫌がらせなのか、単に暇だったのか、はっきりしてきました。

そして僕は、椥さんや鴎さん、そして異人さんを心から尊敬します。写真などのヒントいらずな推理ですからね。

下から銃声が聞えます。剛健さんのプロ根性にも感服します。いや、本当に。



斯くして、無事に生徒会の皆様のご野望を阻止なされたミステリー革命団の皆さん。次はどのような難事件と、難推理が待ち受けているのでしょうか。

僕は退部届けを片手に、あの御方たちを見守るとします。

では、またお会いする日まで……。

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