メイド様のアブナイ魔力?その3
「ダダリア様は陛下付きのメイドッス」
「知ってる。さっき本人に聞いたからな」
ノアがそう答えるとアンディーはがっくりと肩を落とした。
「すげーや、隊長。昨日鎮圧が終わったのに、もうここまで情報を得ているなんて。国境の町からここまで車でまる1日以上かかるのに……」
「ホント、マジパネ~ッス!あそこはまだ電話線も引かれてないんでしょ?どうやって陛下の危機を察知したんッスか?勘ッスか?やっぱり隊長は違うわ~」
昨日の夜7時、レジスタンスのリーダーを確保、9時には無許可で銃器の売買を行っていた地元有力者を逮捕し、ノアが後の処理と書類作成を終えたのが、朝の4時。
そこから一人車を飛ばして王都に戻ってきたのだ。
1日かかる距離を半日に押さえたのは、もちろん内緒。
時間のつじつま合わせを話せば、後で色々とややこしくなるからだ。
「ホント何でも知ってるな、隊長は。もうオレらの話すことなんてないッスよ。ジョウホウトウセイのために今まで仕えていたメイドは皆陛下から外されて、その代わりに来たとか。今陛下の世話は全てダダリア様に一任されているとか。ダダリア様には上の人も頭が上がらないとか。ダダリア様の魅力はほんとハンパネ~とか……隊長はもう知ってらっしゃるんでしょうね」
ボビーがため息混じりに呟いたが、それをノアは聞きとがめた。
ボビーの肩を掴むと体を乗り出す。
「待て待て。知らない。もっと詳しく教えろ!」
その必死な態度にボビーは何かを感じたらしく、顔をにやつかせた。
「は、は~ん、隊長、隊長も男だったんですね。女の子の店に誘っても乗ってこないから、そういうの興味ないのかと思ってましたけど、こりゃ大物ねらいッスね~」
「おい、ボビー、そりゃどういう意味だ?」
「バカヤロ、隊長はダダリア様が気になって仕方ないってことだよ!」
まだ話の流れをつかみきれていないアンディーを他所にボビーは一人したり顔である。
ノアはもう、突っ込みをいれるのもしんどくなってきて、大きくため息を吐いた。
しかしこのまま脱線しまくっていては何一つ情報を得られない。
そう自分に言い聞かすと疲れた体にむち打って、もう一度二人の頭に拳骨を落とした。
ガインっといい音が部屋に響く。
本当に頭の中は空っぽなのかもしれない。
「サーセン。隊長」
「以後話の腰は折るな。それで、ダダリアというのは、元々どこに所属するメイドだったんだ?」
二人はノアの足元にきっちり正座をさせられ、そしてノアの質問してることだけに忠実に答えるようにルールの変更がなされた。
(初めから、こうすればよかった)
ソファに座ったまま、鋭く二人を睨みつけるとノアはボビーに質問した。
「知りません」
「ほう、もう一発お望みか?」
ノアはこれ見よがしに拳を鳴らしてみせた。
その姿は二人は焦り、必死にノアを止めようと口を開いた。
「ほんっと、急に来たんッス。それまでメイドの仕事もオレらがしてたんッス。ご飯運んだり、掃除したり、それが半月前に急に執務室にダダリア様が現れて、驚く連隊長に対して、今日からワタシが陛下のご奉仕を致しますわって宣言したんッス。いや~あれは今思い出しても絵になる光景ッスわ~。って、サーセン。もう無駄口は叩きませんから拳を下して下さい!…それでね、初めは上の連中も渋ってたんッス。内務大臣とか無関係な者を中に入れるなとか、関係ないオレらに逆ギレしてくるし、でもそれも全て、ダダリア様の目を見るまで!ダダリア様のあの目を見た瞬間から皆ダダリア様の虜ッスよ!」
興奮した様子のボビーは更に話を脱線し、ダダリアがどれだけ美しいかを語りだし、それにアンディーも便乗してダダリアの美貌の自慢大会のようになったが、もうノアは止めなかった。
それよりも気になることがあったのだ。
『目を見た瞬間から皆ダダリアの虜』
それは一つのキーワードのように思えた。
(もしかして、催眠術でも使うのか?さっき俺を押し倒したのもそのつもりで……)
そう考えればある程度話の筋は見えてくる。
何かしら太らせる原因を陛下の食事に入れ急に太らせて、このように孤立させた上で催眠術を使い、自分の思い通りに事を運ぼうとしている……。
ダダリア以外に中に協力者がいるのだろう。
そこはおいおい調べるとして、それよりもダダリアが陛下を使って出した指示などが悪影響を及ぼす前に撤廃させなければならない。
それに催眠術の魔の手が他の者にも及んでいるなら早急に手を打たねば。
一人押し黙り考え込んでいたノアはふと気付いて、二人に質問した。
「で、お前らも目を見られたのか?何か合図とかあるのか?見られる以外に何かされるのか?」
「いや~まだなんッスわ~。オレらダダリア様ファンクラブの者としてはぜひ見つめてもらいたんスけど」
「すまない。聞いた俺がバカだった」
真っ直ぐな目で見つめられ、ノアは話を切った。
ダダリアも人を選んでいるということか。
しかしここにいても埒があかない。
近衛連隊長と内務大臣にも話を聞きに行こう。
そうノアが決めた時、待機室の扉の方から玲瓏な声がした。
甘く痺れるようなその声に、部下の二人は弾かれたように振り向く。
「聞きたいことがあるなら、ワタシに直接聞けばいいのに」
開けられた扉の縁にもたれ、件の美女は楽しげにこちらを見やった。
いつの間に扉を開けたのだろう。
扉を開ければ気が付いたはずだ。
それを誰にも気付かれずにおこなうとは、先ほどの素早い体術も合わせて、この女はなかなかどうして一筋縄ではいかない。しかも催眠術も使うとなれば、最大級の警戒が必要だ。
身を硬くしたノアにダダリアは不敵に微笑んでみせると、ゆったりとノアの方に足を進めた。
「はぁい、隊長さん。貴方の質問に答えに来たわよ?何でも質問してよくてよ?」