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メイド様のアブナい魔力?その2

「それは急に始まったんッスよ」


そう厳かに言ったのは、海軍から派遣されている近衛隊員のアンディー・マックリン。

薄茶色のくせっ毛と大きな瞳がまるで猫のように見えるが、可愛いのは顔だけ。

186センチとノアと変わりない身長だが、その筋肉質の肉体は流石は海の男と賞賛を送りたくなるほどだ。

その横にいるボビー・ダグラスは、体格、身長はアンディーに劣るが、しかし、銃器の扱いにはノアも一目置いている、市警の警察官だ。

警察官の癖に、法律よりも銃器のことばかり勉強していたらしい。


「それって?」


待機室のソファに腰掛け、ノアは二人の話に耳を傾けていた。


「陛下の巨大化ッス!」


「巨大化って…他に言い方なかったのか?」


ノアは引きつった苦笑を浮かべたが、二人はポカンとしている。

確かに陛下に対してデブなど言える訳はないが、まるで突然変異のように表現するのもどうだろう。

しかしいい言葉も思いつかないし、それに難しく表現してもこの二人には伝わらないように感じて、ノアは何も言わず先を促した。


「隊長が国境の方の内紛を治めに行かれたのが3ヶ月前。初めの1ヶ月は何事もなく、うるさい上司もいないし、皆で楽しくやってたんッスよ。陛下もテンションアゲアゲでね。皆で盛り上がっていこうぜ~みたいな。でもね、2ヶ月目の半分を過ぎた辺りで急に、陛下がその膨らみ始めたんッスよ。もうマジイキナリッスよ!」


話しているうちに乗ってきたのか、アンディーの言葉に熱が入りだした。

突っ込みどころ満載なのに、ボビーもそうそうと同調し、止めることをしない。


(俺、部下から見放されてるのかな)


ノアは一人なんとも言えない疎外感を感じた。


「そっからはもう、大騒ぎッスよ!大臣とか偉い人が出てきちゃって、やれカンコウレイだ、ジョウホウトウセイだとか騒いじゃって。オレら近衛隊員も一部を残して、王宮護衛騎士団に一時派遣されて、陛下に近づけるのは一部の人間だけになったんスよ。ちなみにオレが陛下が膨らんだのを最初に気付いて、近衛連隊長に報告に行ったんッス!」


褒めて、とばかりに目を輝かしてくるアンディーに、ノアは現金な奴だと思いつつも、よくやったと声をかけた。

それにしても近衛連隊長に対してもこんな口調で報告に行ったのだろうか。

そう考えると頭痛がしてくる。

ただでさえ、こんなどうしようもない奴なのに、緊急事態で焦っていたとなると、たぶん連隊長は新手の外国語を聞かされてる気分だったろう。


近衛連隊長は御齢56歳の温厚な人である。

ノアやアンディー達とは違い、陛下や王族の身の回りのことを管轄する宮侍職の役人としてその長い人生を生きてきた、根っからの文人。

ついでに言えば伯爵号も持っている、雲の上の人物である。

近衛隊はそれぞれの王族に一つ存在し、それぞれの護衛やスケジュール管理等を行っており、それを総合的に管理するのが連隊長の仕事である。

例えばノアが抜けていた場所に違う部署から人を配置したり、大々的な護衛が必要な場合他の部署と掛け合って人数を増やしたりと、警護に支障がでないように複合的にバックアップしてくれるのだ。


(後で謝りにいこう)


そう心に決めたノアの側ではアンディーが誇らしげにしている。

嬉しそうにしているアンディーが羨ましかったのか、我も我もとボビーが自分の手柄を話し出す。


「人間急に膨らむものじゃないッスよ!それに気付いて俺はアンディーが報告に行っている間に陛下から昨日口にされたものを全て聞き出してリストアップしたんッス!」


「お!それは流石だな。やっぱり市警の警察官だ。洞察力が違う。それで、そのリストアップに不審なものはあったのか?」


ボビーの言葉にノアは体を乗り出したが、それに合わせるようにボビーは顔色を変え、視線を反らした。


「あ、いや、あの後すげーごたごたして、リストアップしたのを忘れてて、まだ誰にも渡してないッス」


「っんのボケが……」


「ひっ!!」


ノアの押し殺した本音にボビーはもちろんアンディーも震え上がる。

ノアの蒼い瞳が鈍く輝く。

二人はその輝きに死神の足音を感じ、死期を悟った。

だが。


「それで?」


二人の想像とは違い、我慢強い隊長は部下を地獄に叩き落すようなことはしなかった。

彼の知りたいことはまだ何一つ分かっていない。

太った原因。

ダダリアの存在。

それらが導く先にある陰謀。


「それでって、これで終いッス」


先を促したノアにボビーが戸惑うように答えた。

まだノアがいなくなって1ヶ月半しか過ぎていないのに、もう話のネタは尽きたらしい。


「はぁ?終わりな訳あるか!まだ始まったばっかりだろ?陛下が太った原因は?毒か?病気か?あの女の正体は?陛下がああなって、政治的に変わったことは?」


「ちょ、そんな一気に言われてもオレ、覚えられませんよ!そ、それにオレらは陛下が巨大化してから、ほぼ毎日この待機室にいてぼ~とするか、トレーニングルームでぼ~とするかのどっちかだったんッスよ!情報を漏らしちゃいけないからって、外にも出してもらえないし!」


なるほど。

アンディーらは陛下の護衛というよりも情報を漏らさないようにここに閉じ込められていると言った方が正しいのかもしれない。

そう考えれば彼らの話はここで終わりだろう。

多分何も聞かされていないのだ。


「ほんっと、最悪ッスよ。何の楽しみもない」


「まぁダダリア様に会えるだけ、よしとしなきゃな!」


二人は不貞腐れたように愚痴を言い合っていたが、そのフレーズをノアは聞き逃さなかった。


「おい、ダダリアってのは何者だ?」

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