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メイド様のアブナイ魔力?その6

「何を……」


目の前のやり取りがノアには信じられなかった。

ダダリアの言葉も、アンディーの態度も。

ダダリアが何をしたいのかもさっぱりだ。

しかし、一つだけ分るのはダダリアの言葉にアンディーが変わったこと。


「オ、オレ……」


ぽつりとアンディーは呟いた。


「大丈夫か、アンディー?顔色が優れないぞ。何をされた?」


ノアがアンディーの肩を揺さぶるもアンディーは硬い表情のまま。

これを催眠術と言わず、なんと呼ぶ。

ノアがそう叫ぼうとしたが、それはアンディーの絶叫によって阻まれた。


「隊長~!」


「な、なんだ?大丈夫か?アンディー」


「オレ、隠してたんッスけど、実は熟女好きなんッス!」


「はい?」


アンディーの決死の告白にノアは目を丸くした。

そんなこと別に聞いていなし、この場で叫びながら告白されるようなことでもない。

戸惑うノアを他所にアンディーは止まらない。

涙を流しながら、ノアに食いつかんばかりの勢いで叫んだ。


「オレ、王妃様とか王妃様の女官長のクレアさんとか、ちょっと体型が崩れてきたかなぐらいの熟女が好きなんッス。そりゃ、ダダリア様のような完璧美女も捨てがたいけど、やっぱりあのちょっと脂肪がついた感じの年季の入った体が……」


「待て待て。好きなのは分った!分ったから、そんな絶叫しながら告白するな!」


迫り来るアンディーの勢いにノアはたじたじ。

どこの誰の体つきがいいだの、若い女性では満足できないだの、彼の熟女論は留まるところを知らない。

どんなに叫んでもアンディーの耳には届かないらしく、ノアはしかたなく最終手段に訴えることにした。


「いい加減にしろ!」


顔面に拳を一発。

その激しすぎる突っ込みに、アンディーはもんどりうった。


「落ち着け。お前がどこの誰を好きだろうが、どんな好みを持っていようが構わない。ただ、TPOを考えろ!」


はぁはぁと息を切らしながら力説するノアをアンディーは潰れかけた鼻を摩りながら見つめ返した。

その目は信じられないとばかりに見開かれている。


「隊長……」


「なんだ?」


「オレの好みを認めてくれるんッスか?オレ、ずっと皆に拒否られると思ってたッス!さすが隊長ッス!!」


アンディーは鼻から血を流しながら、むせび泣いた。


「オレ、オレ…隊長に一生ついて行きます!」


「いやいや、お前は俺の話を聞いてたのか?今はそんなこと言ってる時じゃ……」


「オレ、今からクレアさんに告白してきます!!」


そう言うが早いか、アンディーは部屋の外に駆け出していった。

そこは海の男、走り出す勢いも半端なく、ノアの止めるのも聞かずに出て行ってしまった。

その後ろを訳の分からないまま、ボビーがついていく。


「なんだ?今のは……」


ノアは呆然とアンディーの消えた扉を見つめた。

話の流れが見えてこない。

答えを探すように、ソファの上でゆったりとくつろいでいるダダリアの方に向き直った。

戸惑いを隠せないノアにダダリアは満足げに微笑んでみせる。


「どう?面白い特技でしょ?」


「特技だと?」


「ワタシ、人の欲望が見えるの。その人が隠したいと思えば思うほど色濃くそれが分る」


(だからアンディーの隠したい性癖が分ったってことか。でもそんなことは事前に調べれば分るはず……)


ノアはダダリアの嘘を見抜こうと全神経を尖らせた。

ダダリアはそっと立ち上がるとノアの方に歩み寄る。


「人は誰しも欲望を持っている。でもその欲望と上手に生きれずに、必死に押し殺して歪めているものなの。でもワタシ、美しすぎちゃって、どうやら人の欲望を掻き立てるみたい。こうやってじっと人の目を見るとね、その人の欲望が手に取るように分っちゃうの。そして、そんな欲望に直接声をかけることができる」


ノアのすぐ側で立ち止まったダダリアはその薄紫の瞳を妖しく光らせ、ノアを上目遣いに見つめた。


「本能のままにイキなさいって!」


真っ赤な唇から漏れる吐息はまるで甘美な毒のよう。

ノアを惑わせるようにその耳朶をくすぐる。


「じゃあ、さっき俺の欲望も覗いたってことか?」


軽蔑するようなノアにダダリアは苦笑するように肩を竦めた。


「お堅い近衛隊長さんはどんな欲望を抱えているのか、欲望のままに生きたらどうなるのか、とっても気になったのに……。大臣や閣僚とかお偉いさんって、見た目の堅さからは想像も出来ないほどえげつない欲望の塊を抱えているものなの」

 

彼女の存在に物申さなくなった閣僚達の態度はここにあったのか。

彼女は一瞬のうちに彼らの一番の弱みを握ったのだ。

プライドが高い官僚達だからこそ、効果てき面。

誰一人、彼女の存在に物申すことができなくなったのだろう。

そして国王陛下も……。

トリックか、はたまた本当に見えるのか。

どちらにしろ、彼女はとんでもない能力を持っている。


ノアはごくりと唾を飲み、ダダリアの言葉に耳を傾けた。

が……。


「それなのに、貴方ときたら……。ほんっと、つまんない。ノーマルにも程があるわ!」


「はい?」


ダダリアの叫びにノアは今までの険悪さを忘れ、ポカンと口を開けた。


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