主人公を城から追放するだけで国力が上がるんだが?
ワシは玉座の間に来た主人公ヅラしたヤツを追放することによって国力を高め続けてきた王様じゃ。
そう聞くと、さぞや横暴な暴君のように思えるだろう。だが違う。これは国家経営の話なのだ。
この国――アルグレイ王国は、三百年前から妙な災難に見舞われ続けている。
それは「主人公の来訪」だ。
ある日突然、ボロいマントを羽織った若者や、記憶喪失の剣士、転生しただの使命があるだの言う連中が玉座の間に現れる。そして決まってこう言うのだ。
「王よ、魔王を倒すため、私に力を貸してほしい」
初代国王はそれを信じた。
勇者だと持ち上げ、資金を出し、軍をつけ、聖剣まで授けた。
結果どうなったか?
城の半分が吹き飛び、税収は底をつき、勇者は途中で恋愛沙汰を起こしてパーティが解散。魔王は元気に隣国を侵略していた。
二代目の時代にも来た。
三代目の時代にも来た。
そのたびに「勇者」「救世主」「選ばれし者」が現れ、国庫を食い潰し、城を破壊し、最終的にだいたい途中で死ぬか、恋愛か、裏切りか、自己犠牲で消える。
国はボロボロになった。
そこでワシ――第十七代国王レオグランは決めたのだ。
「主人公を追放する」
玉座の間に現れた瞬間にだ。
「王よ、私は――」
「門番、こやつを国外へ放り出せ」
最初は臣下も驚いた。
「勇者かもしれませんぞ!?」と。
だがワシは過去の統計を示した。
主人公来訪後の国家被害額
平均:城壁損壊34%
国庫減少:72%
王都破壊率:21%
国家運営において、これは明確なリスク資産だ。
だから追放した。
結果どうなったか?
魔王は隣国に攻め込み、勇者はそこで無双し、隣国の王女と結婚して王になった。
――そして我が国は?
被害ゼロ。
むしろ隣国の混乱により交易は拡大。
国庫は過去最高益だ。
「陛下、また“主人公”らしき者が来ています」
玉座の間の扉が開く。
ボロマント。
目に宿る謎の使命感。
腰には見たことのない剣。
ああ、間違いない。
また主人公だ。
「王よ、私は――」
ワシは手を上げた。
「追放じゃ」
兵士が腕を掴む。
「ま、待ってください! 私は世界を救う使命が――」
「うむ、がんばれ」
「ここが始まりの城じゃないんですか!?」
「残念ながら、ここは安定した国家なんじゃ」
主人公は連れ出され、扉が閉まる。
ワシは玉座に座り直した。
「さて、次の議題は何じゃ?」
宰相が答える。
「公共事業による街道整備です」
うむ、いい。
実にいい。
勇者より、魔王より、物語より。
国を強くするのは、インフラと財政じゃ。
だがそのとき――
門番が血相を変えて駆け込んできた。
「へ、陛下!!」
「どうした」
「さきほど追放した男ですが……」
「うむ」
「城の外で魔王を倒しました」
玉座の間が静まり返る。
ワシはゆっくりと立ち上がった。
そしてこう言った。
「……門番」
「はっ」
「今すぐ連れ戻せ」
「どのように扱いましょう」
ワシは深く頷いた。
「――投資対象じゃ」




