第6話 王国の策略 — 王国内の政治や戦略を暗算で解析
王宮の一室。
主人公は長机に広げられた地図を見下ろしていた。
東部国境。
北の山岳地帯。
南の穀倉地帯。
そして、それぞれに付された兵数、備蓄量、補給日数。
「現在、魔族側の動きは沈静化しています」
若い文官が報告する。
主人公は即座に否定した。
「沈静化ではありません。再編です」
室内の空気がわずかに変わる。
地図上の兵站距離を頭の中で結び、補給速度を計算する。
魔族領の拠点から国境までの移動日数。
最近減った小競り合いの頻度。
その裏にある意図。
「攻撃準備期間はおよそ二十八日。現在は十五日目」
ざわめき。
「根拠は?」
宰相が静かに問う。
主人公は地図の一点を指した。
「国境沿いの交易量が三%増加しています。偽装商隊による物資移動の可能性が高い。兵站補充です」
「……」
さらに続ける。
「加えて、我が国の北部守備隊は補給遅延が四日。これは偶然ではありません」
宰相の目が細くなる。
「内部に、情報を流している者がいる、と?」
「確率は六十二%」
断定ではない。
だが、十分に高い。
室内に緊張が走る。
王国は四つの派閥に分かれている。
軍部強硬派。
財政改革派。
貴族保守派。
そして中立を装う王家直轄派。
主人公はそれぞれの予算配分を思い出す。
軍部の増額。
貴族領への補助金。
王家直轄の秘密予算。
数字は嘘をつかない。
「軍部強硬派は戦争長期化で利益を得ます」
「言葉を慎め」
兵士が一歩前に出る。
主人公は視線すら動かさない。
「事実です。軍需発注額は昨年比十八%増。戦争が終われば縮小します」
宰相はゆっくりと椅子にもたれた。
「では、どうする」
問い。
試されている。
主人公は即答する。
「東部守備を一時的に縮小。代わりに北部へ兵を回す。軍需発注は三割凍結。浮いた予算で備蓄を増強」
「軍部が反発する」
「反発確率八十七%」
「それでもやると?」
「やらなければ三年以内に財政破綻確率四十二%。魔族侵攻成功率五十超え」
沈黙。
静かだが、重い。
主人公の頭の中では、未来予測が幾通りも走っている。
戦争継続。
和平交渉。
内乱発生。
最悪の未来も見えている。
「……お前は怖いな」
宰相が呟く。
「感情がない」
「あります」
主人公は首を振る。
「ただ、優先順位が明確なだけです」
命。
国家。
生存確率。
感情よりも、合理。
だが。
視界の端に、ある数値が浮かぶ。
“主人公に対する反発度 上昇中”
軍部。
保守貴族。
彼らにとって、自分は邪魔だ。
便利だが、危険。
宰相が立ち上がる。
「提案は受け取ろう。だが、敵は外だけではないことを忘れるな」
主人公は軽く頷く。
忘れることはない。
すでに計算済みだ。
王宮の廊下を歩く。
窓の外、城下町が広がる。
平和に見える。
だが数字は告げている。
この均衡は脆い。
外敵の侵攻確率。
内部反発の増加。
そして――
「排除される確率……三十一%」
独り言が、石壁に消える。
まだ低い。
だが上昇している。
主人公は歩みを止めない。
計算できる限り、負けない。
だがこの世界は、
数字だけでは動かない。
その事実を、まだ彼は知らない。




