第4話 王宮での試練 — 財政管理試験で暗算チート発揮
王宮の一室に通されたとき、主人公はすでに状況を察していた。
長机の向こうに並ぶ役人たち。
机の上には分厚い帳簿の山。
壁際には兵士が控え、窓の外には王都の石畳が広がっている。
「これより、王国財政管理に関する適性試験を行う」
年配の役人が淡々と告げた。
差し出されたのは、過去三年分の収支報告、軍事費、穀物備蓄量、街道整備費、税収変動の一覧だった。数字がびっしりと並ぶ羊皮紙。
普通の人間なら、一日かけても読み切れない量だろう。
「制限時間は一刻(約二時間)。改善案を提示せよ」
主人公は椅子に腰を下ろし、羊皮紙を手に取った。
その瞬間、世界が静まる。
数字が、立体になる。
収支の流れが線となり、兵站の無駄が赤く浮かび上がる。
税収の季節変動が波形として視界に広がり、軍備費の増減が未来予測として重なる。
暗算。
いや、それは単なる計算ではない。
瞬時の最適化。
三年分の収支合計を頭の中で一括処理。
税率を2%調整した場合の五年後予測。
兵士三千人削減時の防衛成功確率。
穀物備蓄を一割増やした際の飢饉耐性。
答えが次々に確定していく。
ペンを走らせる。
「軍備費のうち騎兵装備に過剰投資。歩兵比率を1.3倍へ変更」
「街道整備は東部優先。交易税収増加見込み17%」
「穀物保管倉庫の湿度管理改善で損耗率半減」
役人の一人が眉をひそめる。
「……早すぎる」
まだ十分も経っていない。
主人公は顔を上げる。
「終わりました」
部屋が静まり返る。
帳簿を受け取った役人たちが内容を確認し始める。
次第に、ざわめきが広がった。
「収支均衡だけでなく、将来予測まで……」
「軍費削減で防衛成功率を落としていない……だと?」
「税収増加の理論が完璧だ……」
一人の若い役人が反論する。
「だが、騎兵削減は危険では――」
主人公は即答した。
「現在の騎兵維持費は総軍費の38%。実戦参加率は21%。費用対効果が低い。代わりに歩兵を増強すれば、城壁防衛成功率は現状より4.6%向上します」
沈黙。
誰も、反論できない。
計算は嘘をつかない。
年配の役人が深く息を吐いた。
「……見事だ」
その一言で、空気が変わった。
主人公は椅子から立ち上がる。
特別な感情はない。ただ数字を処理しただけだ。
だが、役人たちの視線は明らかに変わっていた。
称賛と、そして警戒。
これほどの計算能力は、便利であると同時に、恐ろしい。
「王国に仕える気はあるか?」
問いかけに、主人公は少しだけ考えた。
数字は示している。
王国の財政は脆い。
戦争は長期化する。
改革すれば持ち直せる。
「条件次第で」
その言葉に、再びざわめきが起きた。
一介の旅人が、王宮で交渉を始める。
だが主人公にとっては当然だった。
感情ではなく、合理。
王宮の外では、戦争が続いている。
人間、エルフ、獣人、魔族――四勢力の均衡は不安定だ。
この王国も、例外ではない。
主人公は窓の外を見た。
石畳を歩く兵士たち。
市場で働く民。
城壁の向こうに広がる大地。
すべてが、数字で見える。
そして、その数字は告げていた。
――この国は、いずれ大きく揺らぐ。
そのとき、自分はどうするのか。
まだ答えは出ない。
だが一つだけ確かなことがある。
この世界で生きる以上、
数字は武器になる。
戦わなくても、勝てる。
王宮での試練は、こうして幕を閉じた。
だがそれは、主人公が王国の中枢へと足を踏み入れた瞬間でもあった。
そして同時に――
追放への道が、静かに動き始めていた。




