第2話 新世界の数字
森の中を歩きながら、主人公は無意識に頭の中であらゆるものを計算していた。
小川の流れる速度、枝の折れる確率、遠くの崖までの距離、木の実が熟している可能性――すべてが数字として浮かび、瞬時に解析される。
「……なるほど、これは……」
思わず声を漏らす。現代では単なる計算力だったものが、この世界ではそのまま力になる。戦闘はできなくとも、状況判断や危険回避、行動予測に応用できそうだ。
最初の試しに、森の小動物の移動を観察してみる。
枝の揺れ、落ち葉の量、風向きまで計算し、どの道を通るかを予測する。実際にその通り、小さなリスが予想した枝を駆け抜けた瞬間、主人公は軽く笑った。
「ふふ……完璧だ」
歩き続けると、小さな村が森の中に見えてきた。人々が忙しそうに動き、荷馬車が物資を運ぶ。主人公は自然に数値を拾いながら、荷馬車の進行速度や荷物の重さ、道のぬかるみでの遅れ時間まで瞬時に計算する。
「……この荷物は予定より5分遅れそうだな」
村人が角を曲がる前に、主人公はこっそり声をかけた。
「その道を行くと、ぬかるみで少し遅れます。脇道を通れば予定通りに運べますよ」
村人は驚いた顔で振り向く。
「えっ、本当に……?」
主人公はにっこり笑っただけだった。計算した通り、荷馬車は脇道を通ることで、予定通りに村の倉庫へ到着した。
その後も、森の中で倒れかけた木の枝や、崖の上から落ちそうな石まで、数字で安全に予測し回避する。自分の計算が、目の前の現実に直接影響していることに、軽い興奮を覚える。
「……これなら、戦わずして世界を動かせるかもしれない」
まだ大きな戦争や王国の問題は知らない。しかし、数字だけで物事の結果を操作できることは確かだった。戦闘ではなく、知識と計算で状況を変えられる力。
ふと視線を上げると、森の向こうに王都の城壁が見えた。高くそびえる石造りの城壁は、異世界らしい威厳を放っている。主人公は無意識に、城壁の高さ、守備兵の数、城門の幅まで計算していた。
「……なるほど、ここが王国か」
まだ城に入る予定はない。だが、数字で見える世界は、すでに主人公にとって現実であり、戦略的な舞台だった。
森を抜ける途中、倒れた木の枝に躓きそうになった。瞬間、頭の中で力点と重心の位置を計算し、身を翻すようにして転倒を回避する。地面に落ちた葉や枝の感触も、すべて数字として理解できる感覚。
「……これが……俺の力か」
まだ使い道はわからない。だが、確かな手応えがあった。目に見えない数字の世界が、確実に現実を動かしている――そう、主人公は実感した。
こうして、異世界に来て初めて、自分の能力の可能性を知った主人公。
まだ旅は始まったばかり。森を抜ければ王都が待つ。
そして、その先で暗算チートの真価を試す日々が、静かに始まろうとしていた。




