表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/21

第十八話 揺れる王都と花の約束

王の病が癒えた知らせが広まると、

王都には安堵の空気が流れた。


しかし――

静けさの裏側で、別の波が動き始めていた。


王宮の壁に影が走り、

市場では噂が噂を呼び、

路地裏では怪しい人影が走る。


「南方の砦で、反乱が起きたらしい」

「いや、王が生きているのは嘘だって話だ」

「“神の乙女”が国を乗っ取るつもりなんだと!」


まるで悪意だけがひとり歩きしているようだった。


その朝、ミツヨーナは風の庭で水を撒いていた。

花びらに映る朝陽は美しく、

子どもたちの笑い声も聞こえてくる。


それなのに、胸の奥がざわつく。


「……嫌な風が吹いてるわねぇ」


セリーヌが横に立つ。

「ミツヨーナさま。市中で不穏な噂が広がっています。

“王の回復は嘘だ”“あなたが反乱を煽っている”と……」


「アタシが?また変な噂ねぇ。

反乱なんか煽る前に、花の手入れが忙しくてしょうがないわよ」


セリーヌは微かに笑ったが、すぐ真剣な顔に戻る。

「殿下が呼んでいます。王宮へ向かいますか?」


ミツヨーナは頷いた。


王宮の執務室。

レオネルは地図を広げたまま、眉間に深い皺を寄せていた。

彼のまわりには緊迫した空気が漂っている。


「王子、また厄介ごとね?」


レオネルは顔を上げると、

ミツヨーナの姿を見て少しだけ表情を和らげた。


「来てくれて助かった。……状況が悪い」


「悪い状況ほど、アタシの出番じゃないの」


レオネルは深く息を吸い、説明する。


「南方の砦で反乱の兆候がある。

指導者は“王の病は偽りで、王位を奪われる”と民に吹き込んでいる」


「まぁ、そんな安い嘘が通用するの?」


「“恐怖”と“疑い”は、どんな嘘より広がりやすいんだ」


その言葉に、ミツヨーナは沈黙した。


花も人の心も、

弱っているときほど荒れやすい。


レオネルは続ける。


「僕は、剣で鎮圧したくない。

民を守るはずの王国が、民に剣を向けるなどあってはならない」


ミツヨーナはゆっくり近づき、彼の肩に手を置いた。


「いいわね、その考え。

アンタの“優しさ”は、誰より強いわ。

でも、優しさってのは……時々折れそうになるの」


レオネルは苦笑する。

「折れそうだよ。正直に言うと」


「折れそうなら、アタシが支えるわよ。

アタシ、華道の先生やってた時、

生徒が泣くたびに支えてきたんだから」


「華道の……先生?」


「あら、昭和の夜の店ってね、

花と酒と涙の処理まで全部やるの。

立派な“人生教室”よ」


レオネルは声を漏らして笑った。


その笑顔を見て、ミツヨーナも胸が温かくなる。


レオネルは地図を指差した。


「南方の砦に、僕とミツヨーナで向かう。

戦わずに、民の心を取り戻す。

……危険だが、僕らならできると思う」


「ふふ。

言ったわね、王子?」


「君となら、どんな荒れ地でも花を咲かせられる」


ミツヨーナは少し照れくさそうに笑った。


「よーし、アタシの出番ね。

花咲かせて、泣いてる人たち笑わせて、

ついでに反乱まで止めてやるわよ!」


レオネルはうなずき、拳を握った。


「出発は二日後だ。

準備ができ次第、風の庭でみんなに伝えよう」


王宮を出たミツヨーナは、

風の庭に戻りながら空を見上げた。


雲が揺れ、強い風が吹き始めている。


「嵐の前って感じねぇ。

でも大丈夫よ、みんな。

アタシ、絶対枯らさないわ。

この国の笑顔っていう名の花を」


その声は風に溶け、

庭の花々が揺れて応えるように、

静かに揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ