第十六話 裁きの間で咲く花
王宮の大広間。
冷たい空気が流れ、
光は曇った天窓から薄く差し込んでいた。
中央に立つミツヨーナ。
その背筋は、一本の花の茎のようにまっすぐだった。
司祭が杖を鳴らす。
「神の乙女ミツヨーナ。王を呪い、病をもたらした罪を問う。弁明を」
ミツヨーナは静かに微笑んだ。
「アタシが呪いを?そんなの面倒くさいわよ。
呪う時間があるなら、人を笑わせてたいの」
広間がざわめく。
「ふざけるな!」と叫ぶ者もいたが、
その中に少しだけ笑い声が混ざった。
ミツヨーナはまっすぐに言葉を重ねた。
「王さまが倒れたのは悲しいこと。
でも、それを誰かのせいにしても心は癒えない。
悲しみを誰かに押しつけたら、優しさまで枯れちゃうのよ」
重臣が立ち上がる。
「貴様のせいで民が惑わされた!」
「いいえ、民は笑ってたわ。
笑って、助け合って、生きることを選んだ。
それが罪なら、この国の花は全部枯れちゃうわね」
司祭の顔が歪む。
「異端者が……神を侮辱する気か!」
「神さまは怒らないわよ。
だって、笑う人を好きになるのが神さまでしょ?」
その瞬間、広間の扉が開いた。
「やめろ!」
レオネル王子が駆け込む。
息を切らせ、壇上に立った。
「父上!この裁きは間違いです!
ミツヨーナは罪など犯していません!」
王の隣に立ち、叫ぶように続ける。
「彼女は人を救った。
民の笑顔を取り戻した。
それが“罪”だというなら、この国は滅びます!」
重臣たちがざわめき、王は沈黙した。
ミツヨーナが静かに言う。
「王子、ありがと。
でもね、怒りは花を枯らすの。
アタシは怒ってないわ。
だって――愛されてるもの」
レオネルの目が潤んだ。
王が静かに立ち上がる。
「……ミツヨーナ。もしお前が嘘をついていないなら、証を見せよ」
ミツヨーナは目を閉じた。
胸に手を当て、ゆっくりと呟く。
「神さま、光はいらないって言ったけど……今だけは少し貸して」
すると、天窓の雲が割れ、光が差し込む。
その光は王の身体を包み、温もりを与えた。
重く閉ざされていた目が開き、王が息をした。
「……レオネル……?」
「父上!」
ミツヨーナは微笑んだ。
「ね、呪いなんて無かったでしょ」
司祭は震える声で言った。
「こ、これは……神の奇跡……」
ミツヨーナは首を振る。
「違うわ。
人が“生きたい”って願っただけ。
神さまはそれを見守ってただけよ」
王は静かに頷いた。
「ミツヨーナ、お前は神の乙女ではなく……人の希望だ」
「まぁ、照れるわね。
でもアタシ、ただのオカマよ。
花を咲かせるコツなら教えてあげられるけど」
広間に、笑いが広がった。
春のように柔らかい風が流れた。




