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第十四話 花の宴と、王子の影

王都は春の終わりを迎え、街じゅうが花の香りに包まれていた。

その日、“風の庭”では王国主催の祝賀会――

「花の宴」が開かれることになっていた。


庭の花々は満開。

色とりどりの花びらが風に舞い、まるで祝福の雨のようだった。


「ミツヨーナさま!このリボン、どこに結べばいいですか?」

「カイル、テーブルの足がずれてる!もう少し右よ!」

「セリーヌ、その花籠、重いならアタシが――」

「いいえ、これくらい大丈夫です!」


子どもたちや弟子たちが走り回り、庭はにぎやかだった。

笑い声、花の香り、楽器の音。


ミツヨーナはその真ん中で両手を広げ、声を張り上げた。


「はい、みんな!今日は特別な日よ!

花が咲いたことも、笑顔が増えたことも、

ぜーんぶお祝いしちゃいましょう!」


拍手と歓声が響く。


しばらくして、王子レオネルが到着した。

正装の白いマントに、胸には王家の紋章。

だがその瞳はどこか曇っていた。


ミツヨーナはすぐに気づいた。


「まぁ王子、そんな顔じゃ宴の花も萎れちゃうわよ」


レオネルは苦笑する。

「すまない。少し考えごとをしていた」


「“少し”って顔じゃないわねぇ」

ミツヨーナは彼の肩を軽く叩いた。


「アタシの店なら、そんな顔してたら即カラオケよ。

歌うか話すか、どっちにする?」


「……話す、で頼む」


「よろしい♡」


二人は庭の片隅に並んで腰を下ろした。

月明かりが花の上に落ち、風が静かに吹いている。


「王子。

何をそんなに思いつめてるの?」


レオネルは少し間を置き、低く言った。


「……父上が、病に伏した。

まだ誰にも公表していない。

だが、王国は混乱するかもしれない」


ミツヨーナの表情が曇る。


「それは……」


「それに、王位継承を巡って、貴族たちが動き始めている。

“風の庭”を快く思っていない者も多い」


「アタシの庭が……?」


「君の言葉が、民の心を変えている。

それが、権力者にとっては“脅威”なんだ」


沈黙。

花びらが二人の間に舞い落ちる。


ミツヨーナはゆっくりとその花を拾い、指先で撫でた。


「ねぇ王子。

権力ってね、人を守るためにあるものよ。

でも使い方を間違えると、愛より先に恐れが広がるの」


「……恐れ、か」


「だからこそ、アンタは優しさを忘れちゃダメ。

優しい王は、時に弱く見られるけど――

民が最後に信じるのは、怖い顔じゃなくて“あたたかい手”よ」


レオネルの瞳に、かすかな光が戻る。


「ミツヨーナ……君はいつも、簡単に答えを言ってのけるな」


「簡単じゃないわよ。

夜の店で百人の愚痴聞いた経験よ。

王国の相談なんて、かわいいもんだわ」


レオネルは笑った。

その笑顔は、ほんの少し疲れていたが、確かに優しかった。


宴が始まる。


楽団の音が鳴り響き、人々が踊り、笑い、歌う。

ミツヨーナはグラスを掲げ、声を上げた。


「さぁみんな、咲きなさい!

泣くのも笑うのも、全部花の栄養よ!」


ルナもカイルも、セリーヌも笑いながら踊る。

“風の庭”が、まるで命そのもののように輝いていた。


しかし――

その明るさの向こうで、ひとりの貴族が静かにミツヨーナを見ていた。


黒い外套に身を包み、杯を傾けながら、

冷たい目で呟く。


「……この女、国を動かすつもりか」


隣の部下が頭を下げる。

「“神の乙女”を名乗った者も、今や彼女の味方です」


「厄介だな。

王が倒れれば、この女が民を導く……

それだけは、絶対に避けねばならん」


男の視線が、月明かりの中で光った。


その頃、ミツヨーナは何も知らずに笑っていた。

グラスを掲げ、声を張り上げる。


「さぁ!明日も花を咲かせるわよーっ!」


歓声が広がる。

夜風が花びらを運び、星空に散っていく。


だがその花びらの下に、静かに忍び寄る“影”があった。

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