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第十三話 風の庭の仲間たち

春の風が、塔の庭を包んでいた。

花々は色とりどりに咲き、子どもたちの笑い声が響く。


「ミツヨーナさま、見てください!」

ルナが声を上げる。

「この花、昨日より大きくなってます!」


「まぁ、ほんとね。

きっとアンタの笑顔の栄養が効いたのよ」


ミツヨーナはしゃがみこみ、土を撫でた。

指先に伝わる感触が、何よりの答えだった。


庭の隅では、カイルが新しい棚を作っている。

木材を切り、釘を打つ手つきは真剣そのもの。


「カイル、随分頼もしくなったじゃない」


「ルナが水を運んでくれるから、助かってるんだ」


「ふふ、いいチームねぇ。

昔の店のボーイたち思い出すわ」


「……ボーイ?」

カイルが首をかしげる。


「夜の店でね、みんなで協力してお客さんを笑わせてたのよ。

こっちの世界でも、似たようなもんね」


カイルは照れくさそうに笑った。


そこへ、セリーヌが花籠を抱えて現れた。

髪には土が少しついている。


「おや、聖女さまがすっかり農業デビューねぇ」


「もう、“聖女”はやめてください」

セリーヌは笑いながら、花を並べる。


「この花たち……光の儀の日に咲いたものなんです。

あの時の光を覚えているようで、触るとあたたかいんですよ」


「へぇ、まるで思い出を咲かせてるみたいね」


セリーヌはうなずいた。

「ここに来てから、いろんな人に出会いました。

昨日まで見えなかった景色が、今はちゃんと見えるんです」


「そうそう。

人の心は花と同じ。

閉じたままでも、誰かの手があれば咲けるのよ」


そのとき、庭の入口から馬の蹄の音が響いた。

レオネル王子が護衛を伴って現れる。


ルナとカイルが慌てて頭を下げた。


「おや、今日はサボりじゃなくてお客様ね」

ミツヨーナが笑う。


「サボりって……やめてくれ」

レオネルが苦笑する。


「今日は報告に来た。

王が“風の庭”を正式に認めた。

ここはもう、王国公認の“教育の庭”になる」


「まぁ!国公認の花壇なんて、聞いたことないわよ」


「君が作ったんだ。

これからは自由に人を呼べる」


ミツヨーナは胸に手を当て、微笑んだ。


「ありがとう、王子。

でもね、自由ってのは責任つきなの。

これからが本番ね」


レオネルは頷いた。


「そうだな。

君の言葉が、民の祈りよりも人を動かしている。

……その力を、どうか誇ってほしい」


ミツヨーナは軽く笑いながらも、目の奥は少し潤んでいた。


「誇り?アタシね、誇りなんて難しい言葉より、“ありがとう”のほうが好きよ」


その後も“風の庭”には、たくさんの人が訪れた。

戦で家を失った子ども、職を探す若者、孤独な老人。


ミツヨーナは全員に、同じように声をかける。


「花を植えたい人はここへ。

咲かせたい気持ちがあるなら、それで十分よ」


泥だらけの手と笑顔が増えるたび、

庭の花々はよりいっそう美しく咲いた。


夕暮れ。

ルナ、カイル、セリーヌ、そしてミツヨーナ。

四人が並んで空を見上げていた。


空には、夕陽が花のように広がっている。


「ねぇ、ミツヨーナさま」

ルナが小さな声で言った。


「この庭って……いつまで続くんですか?」


ミツヨーナは少し考えてから、微笑んだ。


「そうねぇ。

花が咲くかぎり、そして“誰かが咲かせたい”と思うかぎり。

その限りよ」


風が吹き、四人の髪を揺らした。


まるで“新しい季節”の訪れを告げるように。


その夜、塔の灯りの下でミツヨーナは日記を開く。


今日、またひとつ花が増えた。

咲いたのは花壇じゃなく、人の心。

アタシは神さまじゃないけど、

どうやら“庭師”の才能はあるみたいね。

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