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第十二話 セリーヌの涙、そして新しい約束

祈りの儀から一日が経った。

塔の庭には、まだ光の余韻が残っていた。


花々はいつもより鮮やかに咲き、

空気には甘い香りが漂っている。


ルナとカイルが花壇を手入れしていると、

塔の門が静かに開いた。


入ってきたのは――昨日の“神の乙女”セリーヌだった。


「おや、早い再来ね」

ミツヨーナが微笑んで迎える。


セリーヌは少しうつむいたまま、

ゆっくりと頭を下げた。


「……昨日は、失礼なことを言いました。

あなたを疑ったこと、謝ります」


「まぁ、そんなにかしこまらないで。

アタシ、怒ってなんてないわ」


ミツヨーナは軽く手を振って笑った。

だがその笑顔を見て、セリーヌの目が潤む。


「昨日の光……

あれは神の奇跡ではなく、人の心の光だった。

私には、それが分からなかった……

神を信じるあまり、人を見失っていたんです」


ミツヨーナはそっと肩に手を置いた。


「アンタ、ちゃんと見えてたわよ。

ただね、少し眩しすぎて目を細めちゃってたの。

それだけの話よ」


「……そんなふうに言われたの、初めてです」


「でしょ。アタシ、褒めるの上手いのよ」


ふっと二人の間に、柔らかな笑いが生まれた。


セリーヌは花壇に視線を落とした。

カイルとルナが並んで花を植えている。


「この子たち……昨日の祈りを、今も続けているのですね」


「そうよ。

あの子らの祈りは“誰かの幸せ”を願う祈り。

神さまより、ちょっと忙しい祈りね」


セリーヌはその言葉に、思わず吹き出した。

自分でも笑っていることに驚いたように、

口元を押さえて顔を赤らめた。


「笑うと可愛いじゃないの」

ミツヨーナがにっこり言う。


「えっ……そ、そんな……!」


「神殿にいるより似合ってるわよ、その顔」


セリーヌは耳まで赤くなり、俯いた。

だがその表情は、昨日までの“堅さ”を完全に失っていた。


「……ミツヨーナさん」

セリーヌが小さく呼んだ。


「もしよければ……私も、この庭でお手伝いをしてもいいですか?」


「え?」


「神殿に戻るより、ここにいたほうが……人の声を聞ける気がして。

それに、この花たちのそばにいると、心が落ち着くんです」


ミツヨーナはしばらく彼女を見つめ、それから頷いた。


「もちろん。歓迎するわ。

ただし、アタシの弟子たちの中に入るなら――」


「なら?」


「今日からアンタも、“泥だらけの仲間”よ」


「……泥だらけ?」


「そうよ。花を咲かせるには、綺麗な手じゃダメ。

泥を触って、心を汚して、初めて人を癒せるの」


セリーヌは一瞬ぽかんとしたが、

やがて笑って靴を脱ぎ、裸足で土に足を沈めた。


「こう、ですか?」


「そうそう!ほら、似合ってるじゃない」


カイルとルナが拍手し、庭に笑い声が広がった。


夕方。

夕焼けに染まる花壇を眺めながら、

ミツヨーナとセリーヌは並んで立っていた。


「ねぇ、セリーヌ。

アンタ、神さまに会ったことある?」


「……ありません」


「アタシもよ。

でもね、今日みたいに人と笑ってる時、

“神さまって、こういうもんかな”って思うのよ」


セリーヌは静かに頷いた。


「……私も、少し分かる気がします」


「でしょ?

神さまって、案外私たちの中にいるのかもね」


風が吹き、花びらが二人の間を舞う。

その光景は、どこか祈りよりも神聖だった。


その夜、塔の窓辺で。

ミツヨーナはいつものノートを開いた。


今日、新しい仲間が増えた。

泣いて、笑って、泥だらけになって。

それでも一緒に花を育てたいって言ってくれた。


神さま、アタシ、今ちょっとだけ信じてる。

アンタ、たぶん笑ってるわね。

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