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第十一話 祈りの儀と光の試練

翌朝、塔の庭には静かな緊張が漂っていた。

空は雲ひとつなく、まるで神がこの日を見下ろしているかのよう。


庭の中央には、二つの壇。

片方にミツヨーナ、もう片方に“神の乙女”と名乗る女――セリーヌが立つ。


周囲には王、レオネル、司祭たち、そして街から集まった人々。

その数は百を超えていた。


「これより、“祈りの儀”を執り行う!」


司祭の声が響く。


「真に神の加護を受けし者には、光が降り注ぐだろう!」


人々が息を呑む。

セリーヌが目を閉じ、祈りの言葉を唱えはじめた。


彼女の周りに、柔らかな光がゆらめく。

純白の花びらが空から舞い落ち、光の柱が彼女を包む。


「おぉ……」

群衆の中から感嘆の声が漏れた。


次はミツヨーナの番だった。


風が静まり、空気がぴんと張り詰める。


ミツヨーナは何も言わず、目を閉じた。

祈りの言葉を口にする代わりに、手を胸に当てる。


(ねぇ神さま。

光はいらないわ。

でも――あの子たちに、笑顔を返してあげて)


沈黙。


風が吹き、庭の花が揺れた。

花びらが一斉に舞い上がる。


ミツヨーナの周囲に光は降らなかった。

だが――花の香りが広がり、見ていた人々の顔がほころんでいく。


セリーヌが目を開け、静かに言った。

「……光は、あなたには降りなかったようですね」


「そうねぇ。アタシ、照明にはあまり好かれないのよ」


群衆の中で笑いが起こる。

セリーヌの表情がわずかに揺れた。


「笑っている……?」


「ええ、笑ってるわ。

神さまの光がなくても、人の笑顔は咲くのよ。

アタシが欲しかったのは、それだけ」


ミツヨーナの声は柔らかく、風に溶けていった。


その瞬間だった。

地面から、小さな光が生まれた。


最初は花壇の一角。

次に、子どもたちの足元。


そして庭全体が、淡い金色の光で包まれた。


ルナが目を丸くする。

「……花が、光ってる!」


ミツヨーナは息をのんだ。


「まさか、あんたたち……」


光は人々の足元を照らし、

一人ひとりの影が優しく揺れた。


セリーヌが言葉を失う。


「これは……神の光……?」


レオネルが前に出て言った。


「違う。

これは、人の祈りの光だ。

誰かを想う心が、形になったんだ」


ミツヨーナは笑った。

涙が頬を伝う。


「やだわ、こんなの聞いてない……

アンタたちのほうが、よっぽど神さまじゃない」


ルナが駆け寄り、ミツヨーナの手を握る。


「ミツヨーナさま! ほら、光が優しい……!」


「ほんとね。

まるで“ありがとう”って言ってるみたい」


光がやがて空に昇り、

小さな金の粒となって消えていった。


セリーヌは膝をつき、震える声で呟いた。


「……こんな祈り、見たことがない」


ミツヨーナはそっと手を差し出す。


「ほら、アンタも一緒に見なさい。

光は天からじゃなくて、人の中から出るのよ」


セリーヌの瞳に涙が滲んだ。


儀式が終わり、人々が帰っていく。

ミツヨーナは空を見上げ、静かに息を吐いた。


「ねぇ神さま、見てた?

光なんていらないって言ったけど、

……やっぱり、ちょっと嬉しいわね」


風が吹き抜け、花びらが頬を撫でた。

その感触は、まるで“よくやった”という返事のようだった。

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