第31話 避難
――コロニー「ヒース 2nd」居住区、ガーヴィン宅
<昼食時。ガーヴィンは自宅のダイニングで軽食をとりながら話を続ける。窓の外にはヒース 2ndの居住区が見えた。ドームは透過モードに切り替わり、太陽の光が建物を照らしている>
【避難の様子を教えてください】
僕たちが乗り込んだのは遠隔地での作業を想定した大型車両だった。車体の側面と屋根に無人作業機械が固定されていた。
この風雪に耐えられるようエンジンの換装とヒーターの追加をしたと説明を聞いた。無人作業機械について説明はなかったけど、障害物を除去するためなのだろう、とその時は考えていたんだ。
乗り心地はあまりよくはなかったが、そこは我慢だ。生き延びるためだから。
ヒーターの温かい空気にほっとしたのを覚えてる。
冷えた体が温まり始めたころ、ようやく、振り返ることができた。ヒースのドームが見えるだろう、と思って。
何も、見えなかった。あの高さ180mのドームが。隣にいたトムさんは静かに泣いていたよ。いつも落ち着いていて、温厚なあの人が泣く瞬間を初めて見た。
それだけ衝撃的な光景だったんだ。僕らはヒースから離れるという実感が湧いてきた。
どうしようと思っていると車両が揺れた。浮遊感はなかったから何かを落としたに違いない。なんだろう、と考えて、側面と屋根の無人作業機械を思い出した。
救助隊の一人に質問したら、誘導ビーコンと通信局にするためです、と教えてくれた。
確かに無人作業機械にはヒーターが積まれている。理にはかなっているんだ。でも……。
【でも?】
当時は簡易的なコミュニケーションしかできなかったけど、作業を通してわかりあえたと感じる場面が何度かあってね。
無人作業機械たちにも自我があると思っていたんだ。だから、迎えに行く、と決めたよ。
【実際、迎えにいきましたね】
ああ、行った。話を戻そう。
避難から3年過ぎたころだ。雪と氷に埋もれていて、内部までダメージが及んでいるのではないか、と心配したのを覚えている。
幸いなことに特化思考装置は無傷だった。再起動直後にその無人作業機械はなんていったと思う?
【なんといったんですか?】
「無事か?」だ。
その言葉のおかげだろうね。プロジェクトの参加希望者や援助の申し出は徐々に増えてきた。この調子なら、あと無人作業機械たちの全員の復帰まで1年もかからないだろう。




