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バウンドレス・アイズ  作者: フィーネ・ラグサズ
ロード・ドント・スロー・ミー・ダウン

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第29 白い壁を越えろ!

――コロニー「ヒース 2nd」地上2階、カフェテラスにて


<スペンサー氏はブレンドコーヒーを飲むと一息ついた。ドーム越しに穏やかな光が降り注ぐ、カフェテラスには私たちしかいない。周りを確かめていたのは私だけではない。スペンサー氏も同じだった>


【救助に向かう途中でダメージを受けたと聞きました。個人的な視点で語ってください】


 個人的な視点か。じゃあ、冒険譚っぽくやるのはどうだ?


【いいですね】


 俺たちスピアヘッド隊は、4台の輸送車から成り立つ即席の隊だった。年齢や性別もばらばら。共通点はただ一つ、ヒースの連中を助けたい。

 揚陸艇は大荒れの海に通信中継ブイを定期的に投下しながら、浜にたどり着いた。気圧と気温が下がるのも予想通りだ。車両を下ろして俺たちは走り始めた。

 俺たちの車両は先頭だ。バックミラー越しに後続車両が見える。ヒースのビーコンに向かって一直線だ。


【ビーコン?】


 雪で視界不良になった時に外にいる人間や無人作業機械を誘導するためのビーコンだ。それを最大出力にしたんだ。あれがなかったら俺たちは引き返す羽目になっていたんじゃないか?

 雪がちらつき始め、あっという間に地面が真っ白になった。訓練通り、キャタピラに切り替えたところまではよかった。

 ヒースの近くはブリザードで視界不良、5m先も見えない。さっきまで後ろにいたはずの2号の姿すらもわからない。対物レーダーと通信システムが命綱だ。

 横風に煽られて車内まで揺れが伝わってきた。助手席にいた隊長がベルトを締め直せ、と短く言うと金具の音があちこちから聞こえた。

 なんてブリザードだ、と通信越しに話していたら、ダッシュボードの警告灯が点灯し始めたんだ。他の車両も一緒だ。マイナス80℃まで耐えられるはずの機械が悲鳴をあげている。

 外気温はマイナス50℃、余裕で耐えられると思うだろう?


【はい。30℃も余裕があります】


 俺も他の連中も同じことを考えていた。後部座席のマリーが大きな声で、「暴風雪の影響です! 表面から急速に熱が奪われてるんですよ」と言った。

 車両の異常を示すランプは外側から内側に進み始めた。グリスは凍りつき、バッテリーは出力が落ち始めたんだ。

 やばい、と誰もが思っていた。どうなっているんだ、とはいっても、終わりだとは誰もいわなかった。

 このままじゃ全滅する、と焦燥感を覚えた時、俺はディーゼルエンジンの存在を思い出したんだ。ダッシュボードの裏側にあるスターターのスイッチを入れた。

 後から知ったんだが余熱装置がついていた。発動と同時に警告灯が車両の内側から消えていく。あの時の高揚感は半端なかったな。


「1号車から全車両、ディーゼルエンジンを始動させるんだ」


 隊長が車列全体に指示を出した。警告灯が消えたという報告がばらばらにやってきた。

 ボックスフィッシュの野郎、車両を乗り回して遊んでると思ったら、こんな隠しギミックを用意していたとは。

 ヒースに辿り着けたのは、うちの凝り性の管理者のおかげだよ。

 今じゃ、あの野郎だけじゃなくて、技術者の連中まで便乗し始めた。マニュアルを隅から隅まで読むのがクロッカスの流儀だ。それが誰かの命を助けるかもしれないからな。


<スピアヘッド隊の敷いた通信ケーブルによってコロニー「クロッカス」を経由してコロニー「ヒース」との通信が確立した>

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