第27話 パルス
――コロニー「ヒース 2nd」居住区、公共エリアの図書館
<コロニー「パピルス」管理者リード氏は図書館にいた。データから実体を持った、いにしえの物理媒体を眺めている。彼は私に気が付くとそれをもとの位置に戻した。背表紙には『パピルス浸水事故全容』と書かれていた>
【AD2190.09.30、DEPTH Arrayの信号を受信したとき、どうしましたか】
これは随分と白々しい質問だな、エス。
【白々しいのは理解しています】
太々しいのも加えてやろう。
ヒースにブリザードが来ているのはみな、知っていた。年に数回、1日か2日か、顔を出さない日がある。それがまた来たぐらいのつもりだった。
降雪地帯や山岳地帯にある管理者たちがざわついていたな。これは何か起きているんじゃないか。それは考えすぎだ、とか。
俺は次の雨季にどう備えるか考えていた。洪水の規模が少しずつ大きくなっている。数字にわかりやすくはでていない。これも杞憂か、と思ったときだ。警報とともにメッセージが流れてきたのは。
<<状況: ブリザード - 救援要請 - コロニー『ヒース』>>
DEPTH Arrayはニュートリノを使った緊急通信システムだ。ニュートリノは地球を貫通して反対側まで届く。
ヒースとパピルスじゃ距離がありすぎる。たとえ、行けたとしてもうちにはブリザードに耐えられる装備はない。
なら、やることはただひとつ、後方支援だ。
【そうでしたね。積極的な動きが印象に残ってます】
それは、お互い様だ。ログにも残ってる。
【相互支援協定が無効になる懸念もありました】
その懸念は確かにあった。そんなこと関係なしに俺たちは動いただろう。同じ結果になるかはわからないがな。
救出したい連中は俺にメッセージをよこせ、と叫んだ。すると、地理的に近いコロニーから人と物資を送りたいという声。地球の裏側からは何が起きたのかの予測や長期対応の叩き台が集まりはじめた。
もちろん、海からも。ボックスフィッシュから送られてきた気象観測データは最悪だった。今思えば、あいつらわかって偵察やってたよな。
【わかっていたと思います】
だよな。
DEPTH Arrayで助けに行く、と返信しても、コロニー『ヒース』からの返事はなかった。
【最悪の想定はしましたか?】
もちろんしたさ。DEPTH Arrayが壊れたぐらいは。
なあ、エス。人類の存続と文化の保存を目的としたコロニーがそう簡単に滅ぶわけないだろう?
コロニー管理者も住人も関係なく、多くの存在が助けると決めて、行動を開始した。
どこかの誰かが蒔いた種がみなの中で芽吹いた瞬間だよ。
【同感です】




