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バウンドレス・アイズ  作者: フィーネ・ラグサズ
インタープレナー

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第21話 調律

 チャーリーは調理場で肉を焼いていた。味見役にレグルスと定住組の料理を任されているポラリスを呼んでいる。

 ポラリスからワンダー流の焼き方を教わったチャーリーはそのやり方を見事に再現してみせた。その様子にポラリスもレグルスも賞賛したのだが、焼き上がった肉の味が違う。

 焼き方に問題がないと思ったのか、2回目からポラリスはホールから見守るだけになり、レグルスは最初からホールから二人の様子を眺めているだけだった。


「作り方は聞いた。その通りに作った。でも、味が違う」


 目を閉じてチャーリーは手を動かしていた。何か手順にミスがないか確認するように。次はもっとうまくやるイメージをしているのか。カウンターから様子を見ていたレグルスが声をかける。


「お主、意外と頑固だな」


 レグルス自身はこの味に不満はなかった。薄い味付けではあるが優しい味ともいえる。アスチルベの培養肉でも、ワンダーのとってきた鹿肉でも傾向は変わらないのは不思議ではある。


「ほかのコロニーから来た人には故郷の味だっていってもらえているんだ。君たちの料理だけ味が違うなんて、いろんな意味で許せない」

「まずいとは誰もいってないと思うが……」

「とにかく、おいしいものを食べて欲しいんだ」


 チャーリーは調理台の上に並んだ調理器具や調味料を見て、


「ポラリス、君たちの仲間が戻ってきたとき、全員分の料理が作れるかい?」

「いくら何でも無理だ。今は7人だからできてるんだ。全員揃ったら5倍だぞ」

「だから、僕たちもできなきゃいけない」


 チャーリーの剣幕にレグルスは肩をすくめた。そして、調理場に足を踏み入れる。調理器具や調味料は揃っている。肉の違いと調理法は原因から外れる。


「火をつけてくれるか?」

「火力の指定はある?」

「強火で」


 チャーリーはスライダーを調整して強火にした。フライパンの裏側で青い炎が光る。

 熱せられたフライパンの底に手をかざす。熱はあるのだが、記憶と違う。


「火だな」

「火?」

「薪を使うんだよ」


 チャーリーはしばらく考えてから、ぽんと手を叩いて、


「あ、そうか、それだ!」


 彼は叫ぶと、タッパーに肉、フライパンや包丁などを布にくるんで、素早くリュックに放り込む。


「薪ならある。いい場所も!」


 そう叫ぶと、駆け出した。


「どこ行くんだよ」

「リーフの東、開発準備エリアだよ。あそこなら薪もあるし、火も使える」


 そういうと彼は走り出した。

 ポラリスは呆気にとられた顔でレグルスを見る。彼は彼で片方の眉をあげている。ポラリスの視線に気が付くと、表情を戻して、


「いくしかないだろう」


 といった。

 二人がチャーリーを追いかける。



 チャーリーは真ん中に折った小枝を置いて、まわりに薪をコの字に並べていく。薪を挟むように支柱のついた金属製のグリルを置いた。

 彼は慣れた手つきで、小枝に火をつける。


「慣れてるなぁ」


 ポラリスの言葉にチャーリーは笑う。リュックからフライパンを取り出して、グリルに置いた。


「ここに何もなかったとき、よくやったんだ。あのときはジャガイモを焼いたんだったかな」


 チャーリーは肉をフライパンに乗せた。


「コロニーってそんなこともするんだ。こういってはなんだけど、すごい意外だ」

「ここは僕たちが作ったんだ」


 チャーリーの言葉にポラリスは畑の向こうに広がる街を見た。ここを自分たちで作ったということか。それは途方もないことではあるが、


「でかいキャンプ地のようなものか」

「あ、いいね。それだ」


 笑ってから、フライパンを火から外して、包丁で肉を一口大にスライスしていく。ポラリスとレグルスは渡されたフォークで肉を刺して、口に運んだ。


「いつもと違うけど、これでもないんじゃないか?」

「なんで、わかるんだ?」


 何もいっていないのに思ったことをあてられたことにポラリスは目を白黒させる。


「顔にわかりやすく出てるぞ」

「しかし、一歩近づいたのは間違いない」

「確かにそれはいい傾向だ」


 チャーリーが肉を飲みこんだところで、遠くから声が聞こえた。


「なにやってるんだ、ポラリス」

「ああ、オリオン! 肉を焼いているんだ」


 ポラリスはオリオンの回復を喜んでいるようだ。ここまでなんの補助もなしに歩いてきたのだから、退院も近いだろう、とレグルスは考えた。


「それはわかる」

「君たちの肉の焼き方が再現できなくてね」


 チャーリーの疑問にオリオンはさらりと、


「それも、わかる」

「え」


 驚くポラリスの横からチャーリーが割り込んで、


「ほんとかい?」

「ああ。土を掘り起こしていい場所はあるか?」

「向こうの空き地なら誰も怒らないと思う」


 オリオンはチャーリーの指さした空き地を見た。まわりに可燃物はないし、土の硬さもちょうどよさそうだ。


「お主、ここで一番偉いんじゃなかったのか?」

「偉いから何をやってもいいわけじゃないよ」

「じゃあ、作るぞ」


 オリオンは20分ほどかけてシャベルで縦に深い穴を掘り、そこから別の穴へトンネルを繋げた。L字型の構造だ。


「これだけ?」


 チャーリーの言葉ににやにやしながらオリオンは頷く。


「これでロケットストーブの出来上がりだ。定住エリアには金属で作った奴が置いてある」

「確かに同じ構造だ」


 ポラリスが感心しながら首を縦に振る。


「縦穴が上昇気流を生む。横穴から空気を吸い込む。だから、燃焼効率が高い」


 そういったレグルスも懐かしそうな表情だ。


「君たちのキャンプ地にいったスノードロップがこの調理器具は未知の技術だといっていたよ」

「俺も早く焼けるのと、煙が少ないことしかしらない」


 あとは試せばいいことだ。オリオンの説明に従って薪をくべて、火をつける。

 穴から空気が流れ込み、反対側の穴から勢いよく炎が吹きあがった。

 やや緊張した様子でチャーリーはグリルをおいて、その上にフライパンを載せる。そして、熱せられたフライパンに肉を載せる。焼ける音と香ばしい匂いが周囲に広がる。

 肉に均等に熱が伝わるようチャーリーは肉をひっくり返してやる。オリオンのいうようにあっという間に肉が焼けた。チャーリーは肉を一口大にスライスすると、ワンダーの3人にフォークを渡した。

 3人が肉を食べると、オリオンとポラリスが顔を見合わせて、


「これだこれ」


 レグルスも満足そうな表情で、


「よくやった」

「ありがとう。なるほど、遠赤外線効果のおかげで、うま味が逃げないのか。これならどうやってもどこか味が薄く感じられるのも説明がつく」

「よく知っているな」


 レグルスが感心したようにいう。


「ちょっと、お願いして、あちこちのコロニーから料理の情報を集めてもらったんだけど……」


 チャーリーは全員を見てから、オリオンに視線を向けて、


「一人だとこの仕組みは思いつかなかったよ、ありがとう。オリオン」

「頑張っている者には応援するものだ。これはアトラスの口癖な」


 照れ隠しにいっているのだろう。チャーリーがレグルスを見ると、優しそうな表情でオリオンを眺めていた。

 チャーリーはロケットストーブと土地を見て、


「本格的にやろうとすると、ロケットストーブをたくさん作る必要があるね」


 肉を飲みこんでから、ポラリスはいった。


「俺たちが使っているストーブをヒントに作れないか?」

「その手があった。でも、いいのかい?」


 ポラリスの提案にチャーリーが念のための確認をすると、背後からレグルスは親指を立てて見せた。


「近いうちにばらして掃除するんだ。その時に呼ぶよ」

「やった。ついでにスノードロップを呼んでいいかい?」


 チャーリーの確認にポラリスは顔を綻ばせて、


「あのお姉さんなら歓迎だよ」

「そっか。そのお姉さん、驚いて言葉を失うんじゃないかな。そんな光景、世界中の誰もが見たことないよ」


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