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第九章:血の経典
裏切りの血で染まった鈴鹿一家。
残った者たちの間には、深い不信と冷酷な沈黙が蔓延していた。
覇真は荒れ果てた事務所の中、血の跡を辿りながら、ひとり静かに拳を握りしめていた。
この血はただの流血ではない。
それは新たな教義の始まりだった。
「血で誓え。血で汚せ。血で清めよ――」
覇真は自身の血を紙に染み込ませ、指で筆をとるように文字を書いた。
それは、誰にも見せぬ密かな“経典”の序文だった。
彼の中で確信が芽生えた。
血は罪と罰の象徴であり、命を繋ぐ神聖な契約だと。
鈴鹿一家の生き残りが集められ、覇真は新たな誓いを求めた。
“血の経典”に手を置き、皆が冷たく、しかし揺るがぬ眼差しで誓った。
「俺たちは血で繋がった。これからは互いに命を預ける者だ」
その夜から、鈴鹿一家は単なる極道組織ではなく、
血の契約によって結ばれた教団のような存在へと変貌を遂げた。
覇真の眼には、ただの仲間ではなく、神の使徒のような輝きが宿っていた。
だが、その光の裏には、さらなる闇が潜んでいることを、彼はまだ知らなかった。




