第六章:兄弟盃
夜の鈴鹿一家事務所。
提灯と裸電球がぶら下がる座敷に、男たちが円陣を組む。
空気は張りつめ、緊張と興奮が混ざり合っていた。
その中心に立つのは、神堂覇真と舟木功二。
二人の背中には、それまでにはない輝きが纏わりついていた。
岡村総長が盃を掲げた。
「ここに、鈴鹿一家の新たな兄弟が誕生する。
神堂覇真、舟木功二――血を交える覚悟はあるか」
二人はただ、深々と頷いた。
提げられた血の盃は二つ。
そこには、覇真と功二が左小指の先を切り落とし、その血を滴らせたものだった。
血に満たされた盃を、二人は無言で差し出し、口をつける。
――喉を焼く、生温い鉄の味。
静寂の中、収まらない鼓動。
血が混ざり合い、盃からこぼれる一滴一滴が、新たな誓いと覚醒の火種だった。
岡村総長が声を響かせる。
「これにより、お前らは兄弟、命を預ける仲間である。
この盃を裏切れば――鈴鹿一家、お前たちを討つ」
男たちが見守る中、二人は盃を再び掲げた。
「兄弟の誓いを、血で刻む」――その声は、座敷の奥にまで震えた。
酔いと緊張の中、覇真は功二の肩を叩く。
視線が交わり、言葉はいらなかった。
そこには野獣のような信頼。
そして――底知れぬ狂気の片鱗。
儀式の後、座敷は静かに酒宴へと移る。
音楽も笑い声もない静謐な宴。
俺(覇真)は功二の目を覗き込んで、小さく呟く。
「これからは、二人で地獄を舵取りしよう」
功二もまた、目を細めて言う。
「地獄まで、一緒だ」
その夜、二つの血と命が一つになった。
仁義が交わり、狂気が芽吹き、未来の破滅が静かに呼吸を始めた。