第四章:鈴鹿一家入門
十八歳の春。彩りに乏しいコンクリートに囲まれた名古屋の裏街に、鈴鹿一家の幹部となった俺――神堂覇真は、初めて正式に“所属”を認められた。
総長の岡村が俺を引き上げた。
その場に居合わせた幹部たちが一瞬、視線を注いだ。
「これより、鈴鹿一家 神堂覇真として形ある者になる」
岡村の宣言が、俺の全身を震わせた。
初仕事は、縄張り拡大のための夜回り。
俺は先輩たちの後につき、拳銃、脅迫、接待、金の徴収までやった。
最初は平坦だったが、やがて標的の工場経営者が抵抗して犬を射殺した夜、俺は目の前で初めて死人をじっくりと解体することになる。
死体から血が滴り落ちる。それはまるで、最初の胎動が深く潜るような音だった。
そこで、情の境界線を学んだ。
先輩の西園寺が俺に握らせた。
「暴力には責任が要る。人を守ることになりたいなら覚えておけ」
その言葉に、俺は拳を強く握りしめた。
ある晩、堤清史が突然現れた。
俺の元へ、一輪の百合の花を手に。
「これ、お前が好きだったからさ」
その純粋な優しさに、俺の胸はざわついた。しかし、俺には恋も信頼も似合わなかった。
「ありがとう。…でも、俺は進むしかねぇんだ」
言いながら俺は、堤を深く見た。
「がんばれよ、覇真。お前なら…」
その目に隠されたもの――愛と憎しみの狭間。それを、俺はまだ知らない。
鈴鹿一家では、仁義と裏切り、友情と蹂躙が紙一重で並んでいた。
俺は権力と信頼を学びながら、自らの狂気を育てる土壌を耕していた。
その終わりに、岡村総長からの密命が届く。
それは、俺が“教団”という歪んだ父を生む種だった。
だが、その内容は――まだ胸の奥で眠っている。