第二章:裏街の孤児たち
名古屋・錦三丁目の裏路地。
煌びやかなネオンサインの裏には、誰にも知られず、誰にも望まれずに生まれ落ちた孤児たちがいた。
その一角に、俺――神堂覇真もいた。
俺はここで、堤清史、そして片倉順平と出会った。
堤は変わらず頼れる兄貴分で、片倉は小柄で口は悪いが、俺と同じく血を浴びた目をしていた。
「覇真、てめぇまた飯抜きか」
「別にいい」
片倉は、いつも口ぶりは悪いが、残り飯を必ず俺の前に置いた。
堤もまた、俺を裏拳闘や盗品の横流しに誘い、少しでも金を持たせようとしてくれた。
この裏街で生きる孤児たちは、互いの背中を預け合い、裏切らぬ仁義を誓っていた。
誰も信じられないこの街で、ほんのわずかな絆が、確かにあった。
けれど、それはもろく、脆いものだった。
ある晩、裏拳闘の興行で、俺たち三人が一緒に賭け試合に出された。
相手は、他の孤児グループの頭。
勝てば食い扶持、負ければ路地裏送り。
そんな賭けが、毎晩のように繰り返されていた。
「覇真、今日は俺がお前の分も殴る」
堤はそう言って笑ったが、俺は感じていた。
誰かが負ければ、誰かが生き残る。
試合が始まる。
暗がりの中、拳と血と肉の音が響き渡り、観客の罵声が飛ぶ。
堤は善戦した。片倉も必死だった。
だが俺は、相手の片目を潰し、指を折り、喉を潰した。
血の匂いがまた、俺の中の胎動を揺さぶった。
狂喜――
夜の終わり、勝者は俺だった。
堤と片倉は敗れ、裏路地に蹴り捨てられた。
「……悪ィな」
俺は堤を見下ろし、わずかにためらった。
そのとき、堤はかすかに笑った。
「いいさ、覇真。お前は昔から、そういう奴だ」
それは、兄弟分の誇りと、わずかな寂しさと、何かを諦めたような声だった。
裏街の孤児たち。
仁義も友情も、最後は生き残る奴が正しい。
この夜、俺の中でひとつの答えが形になった。
――裏切る前に、全て殺せばいい。
それが俺の、最初の教義だった。