第十三章:功二の離反
教団の儀式を終えた鈴鹿一家の事務所。
赤く染まった壁には、まだ乾ききらない血の跡が光る。
だが、その熱狂の中で、ひとりの男の心は冷え切っていた。
それが、舟木功二。
彼は拳を握りしめ、何度も深呼吸を繰り返した。
教団化した組織の理念と、自分の信じてきた仁義が、内側で激しく衝突していた。
「俺はもう、こんなものには付き合えねぇ」
功二は幹部たちに告げた。
その声は鋭く、しかしどこか哀しみを帯びていた。
幹部たちは驚きと怒りを露わにし、功二に詰め寄った。
「お前が裏切るのか?」
「ここはお前の居場所だ」
だが、功二の決意は揺るがなかった。
「違う。ここは俺が守りたいものを潰す場所だ。俺は己の道を行く」
その言葉に、覇真は静かに立ち上がった。
目の奥に狂気の炎を灯し、低く言い放つ。
「功二、お前が離れるなら、俺は止めはしない。だが、その道は血の海だ」
二人の間に張り詰めた空気。
まるで運命の分岐点を示すように、時が止まった。
功二はゆっくりと背を向け、闇の中へと消えていった。
その背中は決して逃げる者のものではなかった。
己の信念に従った、孤独な戦士の姿だった。
覇真はその背を見送りながら呟く。
「ならば、俺はすべてを血で洗い流すまでだ」
この離反が、鈴鹿一家を二つに裂き、やがて全てを破滅に導くことを、まだ二人は知らなかった。