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第一章:胎動の兆し

 俺――神堂覇真しんどう はしん

 その名がいつの日か、地獄と信仰と恐怖の代名詞になるとは、誰も思っていなかっただろう。


 俺がまだ十三だった頃。

 両親は歓楽街の借金に追われて夜を彷徨い、いつしか姿を消した。

 俺は孤児院でも放課後の支援施設でも笑えず、ただ人の死の気配と、血の匂いだけを感じていた。


 そんなある夜、廊下の隅で震えていた俺に、一人の子供仲間が声をかけた。


「覇真、大丈夫?」


 同じ境遇で育った、堤清史つつみ きよしという男だ。俺より年上、壮年の男に似た好青年で、いつも俺の背中を守ってくれた。


「うん……」


 俺の目には、そのとき、確かに光が灯った。


 


 十五の夜。

 堤清史との友情は、裏社会の片隅で芽生え始めた。

 裏拳闘、密売の手伝い、軽犯罪――俺たちは排除する存在ではなく、利用されるだけの存在だった。


 そして、その夜。

 裏拳闘の会場で、俺は初めて血を見た。

 相手の顔面を殴り割った時、その肉と血が眼前を飛び交い、咳き込みそうになった。だが、同時にその振動が胸を貫き、奇妙な昂揚に満たされた。


 堤は頬に笑みを浮かべた。


「やるじゃねえか、覇真」


 俺は拳を握りしめ、胸の奥が熱く燃えているのを感じていた。


 


 十六。

 俺はとうとう、鈴鹿一家の幹部にスカウトされる。

 花街のホステス店で働く母親を探すために身体を差し出した日だった。


「目がいい」


 その男――岡村総長おかむら そうちょうは、軽く俺の拳を試した後、小さく笑った。


「お前、使えるな」


 握られた拳と、消えそうな未来の境界線の中で、俺はうなずいた。


 


 裏の道に踏み込んでいくにつれ、清史との時間も減った。

 だが、あの拳闘の夜以来、俺の中には血の胎動が確かに芽生えていた。


 それは復讐にしろ、救済にしろ、正気ではない――

 でも、それが必要だった。


 


 俺は鏡に映る自分の目を見つめた。

 そこにはもう、少年の影はなかった。

 ただ、真っ赤な胎動が、暗い瞳の奥でゆらゆらと揺れていた。


 そして俺は、拳を掲げた。


「俺は、必ず、強くなる……」

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