眼
「はあ・・・。」
私はベッドに寝っ転がった。
とても退屈な毎日・・・・、同じことの繰り返し・・・・。
私は何処にでもいる女の子だ。いわゆるJK・・・、女子高生・・・。三年間だけの肩書・・・。それだけだ・・・。
自分で言うのもなんだが、私がまあまあ可愛い方ではないかと思うのだ。モデルとまでいかなくとも、グループのアイドルくらいにはなれるのではなかろうか・・・・。そう考えるのはちょっとだけ恥ずかしい・・・。
まあ自分位の女の子は、どこにでもいるのだ・・・。だからナンパされたり、ましてや男の子から告白されるなんて経験は無い・・・。それにこの私には、致命的な欠点があった。
内気なのだ・・・。女の子同士でも、無口なのだ。ましてや自分から、男の子に声を掛けるなんてできない・・・。
そんなこんなだから、この自分には異性との交際経験は生まれてから一度も無い・・・・。当然キスなんてした事は無い・・・。
「はあ・・・。」
またしても、溜息がこぼれた・・・。
「もったいないなあ・・・。」
勿論、私の独り言である。
「誰からも注目されないで、齢を重ねていくの・・・・?」
その思わず出た自問自答の言葉で、私はドキッとしたのだった・・・。考えてみれば、それは恐ろしい事である。
可愛い系の女子高生・・・、いうのも恥ずかしいけど結構ムチムチな体型だと思う・・・。本当に勿体ない・・・。一人の女の子が、誰にも相手にされないでオバサンになっていく・・・・。
「はあ・・・。」
スマホを手に取りながら、またもしても溜息が・・・。気がつけば何を見ているのだろうか、この私は・・・。
===== 貴女も注目されます 先着1名様 =====
(・・・・。)
私は絶句した。それには2つの意味があった。
<< 怪しい・・・。 これは詐欺ではないか・・・。 >>
これは一般的な反応だろう。でももう一つは違った。
<< 注目されたい・・・・。 それが歪んだカタチであっても・・・。 >>
これは私の潜在的な欲求であった・・・。それがこんな怪しいネットの広告で引きずり出されるとは・・・。
私は・・・・、気がついたら注文の手続きを済ませていた・・・。
「はあ・・・。」
下校時でも溜息がこぼれる・・・。周りの人たちは、私に何の関心も示さずにすれ違っていく。考えてみれば当たり前だ。別にそこにいるのは、どこにでもいる女子高生に過ぎないのだから・・・。
悲しい現実を再確認した自分は、そのまま何もせずに帰宅した。それには理由があった。
(届いてる・・・。)
親が受け取ってくれた段ボールの梱包品を手に、私は心中で興奮していた。あらかじめ今日届くのは業者からのメールで分かっていたのだが・・・。そそくさと私は自分の部屋に入り、段ボールを乱暴に破り開けたのだった。
「はあ・・・。」
これは単純に落胆の溜息だ。はじめから期待はしていなかったが、それを実際に目にすると・・・。
(これは何なのだ・・・。)
余りに不気味な見た目になのだが落胆が勝っている私は、それを躊躇わずに手に取ったのだった。
約10センチの正四角形、サイコロ状の物体。茶色く薄汚れており、新品では無いことは明白であった。
(はあ・・・。)
心の中でも溜息が・・・。騙された・・・。まあそれほどの金額では無かったのだが・・・。
(ま、こんなものか。)
私はベッドに寝っ転がり、そのまま眠りに就いた。
(はっ・・・!)
目が覚めた。部屋は真っ暗だ。当たり前だ。だって目覚まし時計を確認すると、夜中の2時である。何故、私は夜中に目が覚めたのか。答えは簡単だ。昨日、帰宅するなり、あの訳の分からない通販品を確認したからだ。そして落胆のあまり、そのままベッドに寝っ転がり睡眠に入ったのだ。
だから夜中であっても、十分に睡眠はとった。
「あっ。」
私は気が付いた。お風呂に入っていない。制服のままだ。
とりあえずシャワーでも浴びよう。そう思って私はスカートを降ろした。何故だか、この私はシャツよりもスカートに手を掛けるのが癖なのだ。
「うん・・。」
私は鏡に映った自分自身を眺めた。ネクタイを締めた白いシャツ、その下からパンツが覗いている。我ながらはしたない格好だ。世の男性も、こんな光景を見たら喜ぶのだろうか・・・。その答えは分かるはずもない。
「・・・・!」
異変が走った。そしてそこにあった。
「あ、貴方だれ・・・!」
この私を見つめる者がいた・・・。
「・・・・・。」
歪んだカタチとは言え、自分の願望は叶ったのだった。私には今、注目の視線が刺さっている。それが自分の望んでいた事だったのかも知れない・・・。
確かにそこに眼はあった。昼間には気が付かなかった。この古びた正方形の一つの面に、一つの眼が存在していたのだ。その眼は私の身体を真っすぐに見つめていた。
「うう・・・。」
悔しい事に、この作り物の無感情な眼に対して、私の身体は反応していたのだった。
「・・・・。」
気がつけば自分の眼から涙が溢れ出ていた。それは自分の人生で初めて注目を浴びた、という達成感からきているのだった。そして一人、恥じらいながら衣服を外していったのである。
私はシャワー室に入った。昼間からの汗が流される。これから自分は、あの眼の虜になるのであろう。勿論、私は従順に従うつもりだ。これからもっと自分の綺麗な姿を見てもらおうと、念入りに身体を洗うのだった
~~ 眼 ~~ <完>