BS ~ブラウンスメル~
ブルーシートと段ボールで覆われたその独特の空間には、日中にも関わらず木漏れ日すら差すことはほぼ無い。こんなところにもう1人のスタンダップ能力者、神が居るわけがない。
モソモソとブルーシートが動く。それと同時に鼻を突く独特の臭い。とんでもない悪臭を放ちながら出てきたその男は、天石門別神であろうか。
異臭を放ちながらこちらに向かってくる。
今のところ異臭しかないこの男、光の届く場所で見るととんでもないこと容姿に改めて言うと、上は紅海老茶色と亜麻色のチェック柄の厚手のシャツから覗く下着は唐色で、下は黄土色のワークパンツ、靴は煉瓦色と、茶色まっしぐらのコーディネートで統一。その茶色感が異臭を更に際立たせている。
おい、あんた!
何故か怒った口調でこちらに異臭を従えて向かってくる。
は、はい?
さっきからあんた!何見てんだ!
起こりながら近寄ってくる茶色い異臭
いや、実は、あの、山ひとつ向こうの土地で、あの、ピンクモーゼが時間操作してですね、あの、
異臭もここまで来ると目にくる。
半目を開けながら必死に怒りを抑えようと焦るあまり、ピンクモーゼの説明が全然うまく出来ずにいる。
或いはその異臭のせいかもしれん。
ピンクモーゼ?時間停止?何の事だ!?ここはな!あんたのような輩が来ていい場所じゃねぇんだよ!とっとと失せろ!
まるで砂かけ婆のように砂を投げ掛けてくる。心なしか、その砂までも異臭がする気がする
息づかい荒くしたのは慣れないことなのだろう。一気に大人しくなった。
苦しそうに息をする茶色い異臭の男に向き直る。ここまで来たのだ。黙って失せてたまるか。
あなたは、その、山ひとつ向こうに居る女装したおじさんと知り合いだと聞いたが?
ぜぇぜぇと息も絶え絶えになりながら、こちらを睨み付ける茶色い異臭の男は言った。
...ああ、知ってるが、それがなんだ!ここはな、あんたみたいな一般人が来ていいような場所じゃない!俺らの住みかだ!面白半分で来てんじゃねぇよ!どうせ笑い者にしに来たんだろう!?
茶色い異臭の男は...え~と、めんどくさいからブラウンスメルとしよう。頭文字でBS。
嗚咽しながらBSは私を遠ざけようと必死だ。
いや、ですから、その、あなたのスタンダップ能力についてお聞きしたくて来たんです!あなたの知人の紹介で!
BSはぜぇぜぇ言いながら、少し落ち着いた様子を取り戻した。
スタンダップ?あいつまだそんなこと言ってんのか?
砂を握り締め、こちらに投げようとして、行く宛のない拳の砂を地面に叩きつけた。
...飯を奪いに来た訳じゃないんだな?
飯?
あぁそうだ。最近やたらと多いからな。
世界的に流行したウィルスのせいで、ここいらも不況や倒産で浮浪者が多くなったと聞く。BSは、飯を取られまいと必死だったことがここで初めて分かった。
飯なら間に合ってますから取りません!
間に合ってなくても誰がこんなところから奪うものか。まぁ、それだけ切羽詰まった連中が多くなったということか。
...ふん、失礼な奴だ。
まぁ、あいつの紹介ならいいだろう。こっちに来な。
行きたくない。出来ればこの距離を保ちたい。大体バスケゴール2個分位か?約6m。
しかし、聞きたいこともあるしなぁ...
持っていたティッシュを丸め鼻に入れた。何とかこれでやり過ごそう。
私はBSに案内されるままブルーシートの中に入っていった。