終幕
気持ちいい。乾燥した風が、冷たく白い雪を運んでくる。清々しい。
こんなことなら炬燵でみかんなど言わず外に出てた方が良い。そう思った。
BSは相変わらず生への執着を無くせないようだ。川の畔にあるブルーシートで囲まれたあの根城は今でも丈夫にそこにあった。以前より少しブルーシートがほつれているようだが、あのおっさんの事だ。また何処かから新しいブルーシートでも持ってくるのだろう。要らぬ心配だ。
ピンクモーゼは今でも変わらず周囲への配慮を無くしたままだ。相変わらず彼の通る時は配慮が彼中心になる。まるで時が止まったように彼中心に世界が回っているように見える。
火事で助けた老人達3人は3人ともあのまま亡くなってしまったようだった。残念なことである。いや、どうだろう?それを決めるのは彼らだ。もしかしたら彼ら自身は残念とは思わず逆に良かったと安堵しているのかもしれない。死人に口なし。今やそれを知る方法はない。
消防団員は今回の件でこっぴどく怒られたらしい。野次馬を制止できず、あろうことか一般人を侵入させ、現場へ規制線を張るまでの時間が遅かった等と、始末書を書かされているらしい。
俺はあの後落ちてきた瓦礫に挟まれたまま意識を失っている。今は感覚がない。目はどろどろに溶けたコンタクトレンズが接着剤替わりとなり、内側の粘膜と引っ付き、取るのに苦労したという。完璧には取れずじまいだったそうだ。
あまりにも酷い顔をしているというので、腫れが引くまで包帯を巻くことになった。火傷の傷は消えない。名誉の負傷というやつか。
包帯は火傷した身体や顔の腫れを引かせるためという事で一時的なものだった。思った以上に早く取れたが、それでも人前に晒せない程酷い顔らしく、人前に姿を晒す前には厚化粧をしなければならなかった。全くなんたらめんどくさい、と嘯くがそういう決まりならば仕方ない。と、黙って厚化粧をしてもらう。
着替えに関してもそうである。火傷が酷く、冬だと言うのに暖かい下着等は着れず、着色してある服もその着色料が皮膚に悪いということで着れず、では何を着れるかと言うと、麻、絹等の比較的薄手のものでそれも二枚三枚と着るとそれもまた肌が擦れて悪いと言うので、仕方なく一枚で着る。寒いと言えば黙っていろと言わんばかりに採寸された木箱に入れられる。それでも寒いと言えば、その木箱ごと火にかけられ、これなら寒くないなと思っていたら今度は火傷の部分に火が当たったらとてつもなく痛いんだろうなと思い始め、不安になったので木箱から出してもらおうと思ったがそれも叶わず、まぁしかし、痛くなかったのでそのままにしてもらった。
身体がなくなり灰と化した私は、残った大きな骨を家族、縁のある人等から順に骨を埋める壺に入れられていった。そして、身体があった時から望んだ通り、実家のある裏山の頂上から骨を風に乗せてもらった。
心地よい乾いた風が清々しい。
これなら炬燵でみかんなど言わず外に出てた方が良い。そう思った。
遂に手に入れた。
これこそ私の待ち望んでいたものだった。
自由に風を感じながら、私はどこまでも遠くに自由に飛んでいくことが出来る。これからもずっと。
END