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第2話 聖女は四姉妹らしい

 金髪の少女が呪文の詠唱を終えてから、しばらく経った。


 俺たちの前に現れたのは、シスター服を着た少女だった。走って来たのだろうか、息を切らしており、ベールからは水色の前髪が飛び出している。


「ソルディちゃん……もしかして、その人が?」

「そうよ! トラスって名前らしいわ!」

「……そうですか。よろしくお願いします。私は、ラクアと申します」


 水色の髪をした少女——ラクアは丁寧にぺこりとお辞儀をしてきた。おそらく混ざっている血は、魔族のもの。淡い碧眼が弱々しいが発光している。コルフと同じ特徴に、ズキリと胸が痛くなる。


 続いて現れたのは、緑髪の少女。少しだけ耳が長い。おそらく、ハーフエルフだろう。


「む……聖犬というのは、もっと大きいのではなかったのか?」

「まあ、いいじゃない! 聖なる力はちゃんと感じるんだし」

「それもそうか。はじめまして、勇者殿。僕はレグナだ。よろしく頼む」


 緑髪の少女——レグナは爽やかに握手を求めてきた。上半身に鎧を纏い、下半身には深い緑のロングスカートを着用している。美少年と言っても通用しそうなはっきりと整った容姿。同性からもモテそうだ。


 そして、二人が訪れてから、一時間。もう一人の姉妹とやらが、いつまでたっても現れない。


「もう! テラは、何やってるのよ!」

「心配ですね……探しにいきましょうか」

「そうだな。まあ、これを落としていなければ、多分どこかで寝ているんだろうが」


 緑髪の少女レグナが取り出したのは、チェーンに繋がれた金属片。


「……ありそうね」


「【金属よ、共鳴せよ】」


 ソルディが呪文を詠唱する。


「こっちよ!」


 金属片が震えだし、見えない手に引っ張られているように動き出す。


 正直、人目につくのはいやなのだが、放っておくわけにはいかない。


「……お前ら二人も、俺の魔法を知っているのか?」


 俺は水色髪の少女ラクアと緑髪の少女レグナに向かって聞く。


「……? はい」

「ああ、もちろん」


 悪びれもせずに答える二人。頭痛がしそうである。


「それをどこかで言いふらしたりは?」


「していませんよ」

「同じく」


 嘘をついているようには見えない。それに、そもそも判別の仕様がない。


「信用するしかないか……。はぁ……」


 俺は自身とフォコに触り魔力を込める。


「【透き通れ】」


「わぁ、消えてしまいました」

「便利そうだな」


 水色髪の少女ラクアと緑髪の少女レグナは、それぞれ驚嘆と感心の反応を見せる。


「ついていくから、気にしないで向かってくれ」


「……声は聞こえるのね。まあ、いいわ。行きましょう!」


 金髪の少女ソルディを先頭にして歩き出す姉妹たち。俺はその小さい背中たちを追いかけていったのだった。


 ******


 人目につかない路地裏から大通りを歩いて、町の入り口にたどり着く。


「あそこね」


 ソルディが指し示したのは、入り口を出てすぐの大樹——ではなく、土の塊だった。


(なんだ、あれ。あんなものあったか?)


 球状のそれは、明らかに異質なものだった。俺の身長くらいはある大きさの球体が木の側に鎮座していたのだ。まるで、大きな蜂の巣のように。


「テラ! 起きなさい! 何サボってるのよ!?」

「んんん、アー? ソルディなのカ?」


 土の球から、寝ぼけているような声が聞こえてくる。土の球はさらさらと崩れていき、中から少女が現れた。


「ふぁーア……まだ明るいじゃないカ」


 茶色い狐の少女があくびをしながら、よく分からないことをいったのである。


 あくびをしている少女は、茶色の体毛をもつ狐の獣人に見える。頭の上の耳と尻尾は明らかに普通の人間とは異なるが、それ以外の部分はほとんどヒューマンと変わらない。ハーフ獣人の特徴だ。


「明るいから起きるのよ! 皆で探そうって言ったじゃない!」

「うーン……探したんだヨ、でも見つからなくっテ」


 茶髪の少女テラの言葉は申し訳なさそうだったが、態度は飄々《ひょうひょう》としている。


「せめて応答はしなさいよ!」

「ごめんナー」


「ソルディちゃん、あんまり……」


 そんなやりとりを見かねたのか、水色髪の少女ラクアが仲裁する。


「もう……まあ、いいわ! それより紹介するわ! 私たちは、聖女に選ばれたの!」


 ソルディは、明後日の方向を向かって胸を張っている。


「……詳しい話は、人目につかないとこで聞かせてくれ。座れるところ……そうだな、安全地帯セーフスポットで話そう」


「安全地帯?」


 不思議そうにしている緑の少女レグナ。俺はその様子を見て、推測したことを話す。


「お前ら、冒険者じゃないのか?」


「今日からね!」


 金髪の少女ソルディはまた胸を張っている。今度はこちらに向かって。


「……まあいい、それじゃあ、とりあえずここの……『母なる迷宮』の位置は分かるか?」


「それは分かるわ! ここから見える草原をまっすぐ突っ切って、見えてくる岩山よね?」


「ああそうだ。そこの近くにモンスターが襲ってこない場所がある。そこに行こう」


 そう言って、俺は木の陰に身を隠す。


「【解けろ】」


 魔法を解除し、歩き出す。今度は俺が先導する番だ。


「ついてきてくれ」


「分かったわ」

「はい」

「ああ」

「グー」


 茶髪の少女テラは、金髪の少女ソルディに叩いて起こされていた。


 ******


 サガナキタウン、『母なる迷宮』近くの大木。その幹の中に俺たちはいた。ちらほらと冒険者はいるが、今は昼どき。ほとんどダンジョンに潜っているか、昼食を食べに宿屋街にもどっている。


「じゃあ詳しく教えてくれ。お前らの目的とやらを」


 たくさん並べてある丸太のテーブルと丸太の椅子。それらの一スペースで俺は四姉妹と対面して、少女たちの事情を問いただし始めた。


「いいわ! まず、私たちは聖女なのよ!」

「聖女とは、魔に抗うための存在です。魔物を産み出す邪悪、それらを打ち倒すために選ばれた存在なのです」

「【予言の財】をもつ大神官さまが、お告げをくれたんだ。私たち4人と聖犬、そして聖犬に選ばれた勇者ならば、母なる迷宮を根絶できるとね」

「ふぁーア、それで私たちは聖犬を探していたんだヨ。大きな白い犬という情報を頼りにネ」


 金色、水色、緑色、茶色の少女たちが順番に説明する。妙に息が合っている。練習でもしたのか?


「……何となくだが、話は分かった。それで……どうして俺の魔法がばれている? その神官さまとやらが口にしたのか?」


「ええ! それにしても何で隠すのよ! 便利な魔法じゃない」


「こっちにもいろいろと事情があるんだよ。とにかく俺の魔法の系統は誰にも教えないと約束してくれ」


「わかったわ」

「承知しました」

「了解した」

「おっケー」


 それぞれ返事をする少女たち。正直頼りないが、信用するしかない。


「俺の魔法は【聖犬言語】で登録してある。もしも誰かに聞かれたら、それで口裏を合わせてくれ、さて……」


 この場で言いたいことは、多分言い終わった。忘れていたら後で言おう。そう思って、俺は立ち上がる。


「どこにいくの?」


「魔法について黙っておいてくれるなら、パーティを組むのは構わない。だから、とりあえずお前らの出来ることを見せてくれ」


「うふふ、いいわよ! 私たちの力、存分に見てなさい! すごいんだからね!」


 金髪の少女ソルディは胸を張って宣言する。


「エー……今日はせっかく勇者サマに会えたんだから、もう休んでいいんじゃないカ……」


 茶髪の少女テラは丸太の机に右頬をつけて、ぶつくさと文句を言っている。


「がんばりましょう! テラちゃん!」


 水色の少女ラクアの目には、希望が満ちているようだ。


「ふふっ、腕がなるね」


 口に手を当て、ほほ笑んでいる緑髪の少女レグナからは確かな自信を感じられる。


 このときは、約一名を除いて、全員やる気がみなぎっているように見えたのだった。

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