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第29話 レアモンスター

 熱により、目の前の空気がゆがんでいるように見える。溶岩が流れる小部屋、そんな場所で、少女たちは戦闘の準備を整える。


「【水よ、纏え】」

「ありがとっ! ラクア」

「ありがとう。行ってくるよ」

「はいっ! 頑張ってくださいね、二人とも」


 ラクアが創りあげた水の鎧を装着し、体の大部分が溶岩で構成された竜型のモンスターに挑むソルディとレグナ。


 ここは、【第四迷宮】9階層。

 そして、相対するは、大型の中級モンスター。滅多に出会えないレモンスターの溶岩竜マグマドラゴンである。

 

 何度も何度も、幾度も幾度も、階段の上下運動を繰り返した果ての邂逅である。姉妹たちには何度ため息を吐かれたか分からない。逃すわけにはいかない。必殺である。


「はあぁっ!」

「うりゃあっ!」

「ごぼぼ、がばぁっ!」


 大きな口から溶岩を吐き、武器を振るうレグナとソルディを迎え撃つマグマドラゴン。


 溶岩は水の鎧とぶつかり、水蒸気が吹き出すが、鎧に欠損はない。ラクアがいつのまにか習得していた防御魔法の絶大な効果に驚きつつ、前衛組の戦闘を見守る。


 この『母なる迷宮』に居座る迷宮主と能力が酷似していると言われているレアモンスター。挙動の一つ一つ、溶岩の扱い方をしっかりと細部まで確認し、脳みそに詰めこむ。


「がばば……がばぁっっっっ!」


 溶岩をものともしない相手に憤ったのか、焦ったのか。マグマドラゴンは、太い尻尾を地面に激突させながら、前衛組を威嚇する。


 地面に亀裂が入り、熱によって赤く変色した岩の群れが不規則に飛び散る。しかし。


「【水よ、包め】」


 ラクアが握る聖女の杖——錫杖のようなかたちをした杖から、大きな水色の球体が放出される。


 ばしゃっ! ばしゃっ! ばしゃっ!


 岩盤の破片たちは、勢いを失い水塊に飲みこまれる。


 水蒸気があたり一面を白く染め、視界を悪くする。


「——魔力添加マナブースト


 ソルディの両手が魔力に包まれ、しっかりと握られた大金槌ハンマーが金色に輝く。


「【幹よ、連なれ】」


 魔力感知に優れたレグナが創りだしたのは、樹木の足場。


 ソルディが階段状に連なった木の幹を駆け上がる。


「だああああっっっっ!」


「がば————ばぼっ」

「【土よ、掴んデー】」


 マグマドラゴンの口の動きを制止したのは小型のゴーレム。一瞬にして現れたゴーレムによって、溶岩弾は暴発する。


 どがぁん!!!!


 轟音。破砕。マグマドラゴンの断末魔の叫びを聞くことは叶わない。


 マグマドラゴンの頭上に振り下ろされたソルディの一撃は、竜が作りあげた穴よりも遥かに広く大きなクレーターを出現させていた。


「ぶいっ!」


 こちらを振り返り、ピースサインと満面の笑みを見せてくれるソルディ。少し離れた位置で、レグナは勝利の余韻に浸るようにたそがれている。


「……上出来だ。すごいよ、お前ら」


「ふふふ」

「本当にナー」


 後衛組、近くでほほ笑むラクアとどこか他人事のように言うテラ。


 俺が手を貸すことなく、この新人冒険者のパーティは竜の討伐という偉業を達成してみせたのだ。

 

 ******


 魔石凝縮フラスコや体力回復用のポーションを取り出すために、俺はゴーレムに積まれた大きいカバンをまさぐっていた。


(そういえば、これも使っておかないとな)


 キラリと光る異物。カバンの中の透明なオーブと目が合う。俺は、ベレー帽の少年、ヴェントとの会話を思い出していた。


「——これ! お礼!」


 宝物のようにフレアスライムの魔石を抱えるヴェント。彼が空いている左手で差し出してきたのは、透明なガラスのような球体。


「何だ、これ?」


 その球体を受け取った俺は、それを眺めてみる。既視感はあるが異質なもの。


「オーブだよ! 冒険者なのに知らないの?」

「オーブは知ってる。……けど、透明なオーブなんて聞いたことないぞ。封じ込められている属性が分からないじゃないか」


(……まさか、【透明化の魔法】でもあるまいし)


「当然だよ! それ、からのオーブだから」

「からのオーブ? 何だそれ?」


 聞いたことがない。多種多様なへんてこアイテムが揃う魔女商店においても。


「そのままの意味だよ。空っぽなんだ。だから、魔法を封じ込める前のオーブってこと」

「……前? てことは、魔法を保存できるってことか?」

「うん!」


 ヴェントは、笑顔ではっきりと言い切る。嘘や冗談といったわけではないようだ。


「……ありがたいが、受け取れない」

「なんでさ!?」

「貴重すぎるんだよ。今回の対価として、見合ってなさすぎる」

「あー、それなら気にしなくていいよ。ぼくの趣味で造ったものだから」

「趣味……?」

「【開発の財】——ぼくの【天賦の財】だよ」

「マジか……」


 正直な話、魔法使いよりも商人の方が向いてるんじゃないか、という言葉が喉の奥から湧いてきそうになったがぐっとこらえる。仮にだが、これを販売したとすれば、金がいくらでも手に入るのではなかろうか。


 ——ヴェントと別れたあと、貴重なアイテムの使い道について俺はずっと悩んでいた。いや、今でも迷っている。


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