愛の嘘〜中編2
本当は次で終わりにしようと思いましたが、区切りが良かったのでここまでにしました。
鎌を持った死神が二人の前にふら〜っと前に立つ。君が悪い事に風が吹いてはいないのに黒いフードは靡かれている。旗印のように鎌を立て、人骨の目から青い炎をのぞかせひろきを微動だにしないで凝視する。
「汝、我が見えているのか?」
ひろきは「あぁ〜」と声を漏らす。
「これって、見えてないって言った方がいいやつかな?」
「ひろき、もう遅いよ。」
ひろきが屈んだ刹那、空を切る音と風を頭で感じる。
「ナイスタイミング!」
「茶化す場合じゃないだろ!!」
それはそうだ。目の前には異形の骸骨が鎌を振り下ろし、自分の首を取ろうとしたのだ。洒落にならない事が起きている。
「やはり、見えているのか。」
片手を地につけて屈んだ姿勢のひろきと振り切った死神の目が合う。青い炎と黒い瞳が永遠かと思えるほど長く見つめ合う。
「見えてるから何?通してもらえるのかな?」
ひろきは危機を察知した蛙のように素早く後ろに跳ねる。死神もそれを逃すまいと鎌を振り下ろすがヒロキの黒い髪を数本切り裂くだけで追撃ができなかった。
「あの場は我らの狩場、そして、我が見える汝も我が狩りの獲物。」
「狩場?」
「魂の狩場だよ。彼ら死神は魂をあの世に運ぶ事が仕事なんだ。」
「その条件って?」
話してる最中に鎌を縦一文字に振り下ろすもひろきは体を右に反転させ避ける。
「見えたものが条件だよ。」
今度は足元を払いのけるように狙ってきたのでジャンプしてから鎌の側面を踏みつける。
「それ、ヤバくない?」
鎌を引き抜こうとするが、微動だにもしない。引き抜こうとしてもびくともしない。焦る死神が顔を上げると金色の目で貶むような眼差しで見つめてくる彼がいた。
「汝、悪魔か?」
「ああ、そうさ。彼と契約してる悪魔だ。」
「なぜここを通ろうとする?」
その問いかけに、ひろきは小さい死神の顔をゆっくりと鷲掴みする。死神は抵抗する事が無く、掴まれた後も動く事が無かった。
「ボクの従者が望んでるからさ。」
拳を握り締めた途端、せんべいのようにクシャクシャと顔が砕け落ちていき釜から手が離れる。
「そうか、我は、我らは悪魔を敵にしてしまったか!!」
死神は何処か愉快そうに、ドッキリに引っかかったかのような満足げな笑いを上げながら黒い炭へと変わっていき消滅する。
「さて、終わったよ。」
ひろきが瞬きすると黒い目に戻る。
「中へ行くか。」
自動ドアを潜った途端中から冷たい視線のような、暗闇を進むかのようなモヤ〜とした感情が湧き上がる。
「オルロス、嫌な感じがする。」
「だろうね。さっきも言ったように死神の狩場だ。」
「一人じゃないのか?」
「もう一人いたんだよ。出なければ複数形でどうこう言わないでしょ?」
「複数形で言ってたっけ?ごめん覚えてないや。」
ひろきは何かを探しながらオルロスに答える。
「見つけた!」
ひろきは階段を見つけ上がっていく。
「ここから何回だっけ?」
「6階だよ。」
「コレはキツいね。」
「いい運動になるんじゃない?」
息を切らして階段を登っていくと壁から鎌が生えてくる。
「鎌が現れたよ!」
「わかってる!」
刃が鮫の如くこちらに迫ってくる。
「当たるかよ!」
ひろきは一旦後ろに下がって距離を取り四つん這いで階段を登る。
鎌を背にした時に立ち上がり走り出す。
「なかなかキショい動きをしてたね。」
「うるせぇ!」
階段を登りながら階数を確認する。
「今、4階かよ!」
「あと2階頑張ろう。」
走って息切れしてるせいなのか、それとも焦っているのか、ひろきは声を荒げながら走る。
「所で、あの死神はどうする?」
「どうするって、向かってくるなら倒すだけさ。」
それを聞いたオルロスがため息混じりに吐き出す。
「わかったよ。そうなった時は手伝うとするよ。面倒だけど。」
そうして彼らは6階に着く。その頃には陽がだんだん建物の下に隠れていた。
「あった!奏美ちゃんの部屋だ!」
扉を開けた途端目に入ったのは眠ってる奏美だった。
「奏美ちゃん!」
顎あたりに鎌を突きつけられる。
「立ち去れ。」
低く響くような声をした死神が夕闇の影からすぅーっと現れた。
「汝か?我が同胞を始末したのは。」
ひろきは鎌を突きつけられた姿で両手を上げる。
「さぁ?何のことかな?」
「惚けるな。我が同胞はここで落ち合うと約束した。だが、ここに来たのは人である汝、貴様が来た。」
「あぁ〜、人間が来るのはおかしい的な感じ?」
「・・・・汝、人ではないな?何者だ?」
「俺は、人間だよ。ただー」
死神を見つめる目はだんだん金色に変わっていく。
「悪魔と契約した人間だけどね。」
不適な笑みを浮かべながら目の色の変わる様に死神は絶句する。木野はその隙を見逃さず大鎌を死神から奪い取る。
「なっ!?」
「余所見は禁止さ!」
言葉が紡ぎ終わった時には死神のフードば胸から斜め一文字で切り裂かれてた。
「おのれ、貴様の邪魔さえなければ彼女の魂を取れたものの!!」
その言葉に木野は眉を細める。
「早まった?・・・・まさか、嘘を!!」
死神は黒い塵となり消えていく。手に持った鎌を離すと地面に吸い込まれていく。
「この子、とんでもないことをしたもんだ。」
瞬きをすると黒い瞳に戻る。
「オルロス、あの死神の言い方的に、彼女がとんでもないことをしたのか?」
オルロスは少し息を呑んだ様な間を作りゆっくりと語りだす。
「広高君に嘘をついたんだろう。」
「それが良くないのか?」
「八大地獄って知ってるかい?」
「ああ、人が落ちる8つの地獄だろ?」
「その中に、嘘はあったよね?」
ひろきは顎に手を当てて少し考えてから口を開く。
「・・・・あの二人は嘘をついた彼女の命を取る為に来たのか?」
「恐らくね。」
「そんな理由なら、俺だっていつ死んでもおかしくない。」
「君はボクがいるから大丈夫なのさ。」
話をしてると奏美が目を覚ます。
「あれ?ひろきさん?」
白い髪を靡かせながら彼女はこちらを覗き込む。
「奏美ちゃん・・・ごめんね起こしちゃって。」
少し頭を掻きながらひろきは目を泳がせながら答える。
「どうしたんですか?」
青い瞳でこちらを見てくる奏美に対してひろきは少し深呼吸して目を見つめて答える。
「奏美ちゃん、出来たらでいい。嘘なしで答えて欲しい。」
「嘘なし、ですか。」
「君は、広高君に何か嘘をついたのかい?」
それを言われた途端、彼女は目を見開く。
「誰かから聞きました?」
「風の噂だよ。」
それを聞いた途端奏美は頬を膨らませ拗ねた様に答える。
「嘘付き。」
「ああ、嘘付きさ。しかも筋金入りのね。」
そう呆れた様に答えると彼女はクスッと笑う。
「分かりやすいですね。ひろきさんの嘘は」
「咄嗟の保身のための嘘。将来的にはピノキオみたいな末路を辿りそうだけどね。」
彼女は首を横に振る。
「そんなことないと思います。」
「は?」
「だって、ひろきさんの嘘は優しいから。さっきの嘘だって、嘘だってこと分かりやすいですから。」
彼女はそれを笑顔で口にする。
「馬鹿にされてる?」
少し怒った口調でひろきは返答する。
「違うよ。彼女的に励ましてくれてるんだよ。」
オルロスに言われた途端ひろきは咳払いをする。
「悪い。少し取り乱した。それで、言い方的に奏美ちゃんはとんでもない嘘をついたの?」
それを言われた彼女は黙りゆっくりと下を見る。
「図星の様だね。」
「何を言ったんだい?」
聞き取れないほどの小さな声で囁く彼女に「聞こえないよ。」とひろきは呟くと何かを噛み殺すような大きく、憎悪に満ちた声を彼女は挙げる。
「私は!広高に『好きっ』て嘘をついたの!」
「え?」
ひろきは拍子抜けしたかの様な声をあげてしまう。
「私は彼に嘘をついた。好きじゃないのに好きだって言ったの!」
「えっ、あっ、その、何でそんなこと言ったの?」
「彼が・・・怖かったからです。」
「怖かったから?」
「はい。彼はひろきさんのことを今まで見たことない様な顔で睨んでました。だから、咄嗟に言ってしまったんです。彼にあんな顔してもらいたくないから。『そういう所が好きだよ』って。」
それを聞いた途端、ひろきは頭を抱える。
「それで、広高は愛の告白だって勘違いした。」
「はい。そんなつもりなかったんです。だけど、そう捉えられてしまって・・・・どうすれば良いか・・・・ゲホッ!」
彼女が咳をした途端布団には赤いシミがポツポツと現れる。
「奏美ちゃん!」
初めての経験でひろきは少し青い顔をしながら彼女に答える。
「知ってました。私の命が長くないことは。」
血を口から垂らしながら彼女は机に置いてた手紙を渡す。
「これ、受け取ってくれませんか?」
「これは?」
「私から、あなたへの手紙です。」
次こそはこのお話の最後のはずです。