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侵蝕の解放者  作者: 小語
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第29話 仲間たちとアグレイ

大量の喰禍が出現したとの報告を受けて応援に向かったアグレイたち。

現場では多くの人たちが犠牲になっていた。

強敵もいて焦るアグレイだったが、キクたちの協力を得て敵を倒していく。

残ったのは蟲騎士と、数体の喰禍だった。

「何だ、どうなってる?」


 そこに、遅ればせながら二十人ほどの警備隊を従えたフリッツが駆けつけてきた。


「報告では四十前後の喰禍が出現したはずだ。それが、十体以下に減ってるじゃねえか」


 フリッツの言う通り、喰禍は激減している。


 岩魔は四、煉鎧は三、蟲騎士はいまだ健在であり、その脅威は侮れないが、わずか四人で喰禍をここまで相手取ったことに対する驚きの方がフリッツの声に濃い。


「アグレイ?」


「フリッツ、大丈夫だ。そこで待っていろ」


 相棒の次に、アグレイは三人に問いかけた。


「お前ら、信じていいんだな?」


「この僕を信用したまえ」


「ええ、お任せあれ」


「当然よ。あんたこそ、自分以外の心配している余裕あるの」


 アグレイが唇の端から犬歯を覗かせた。


 アグレイの右手から光が消え失せ、左足に燐光が宿る。


 アグレイの蝕肢は、血管であった。侵蝕された部位を血流に乗せて恣意的に移動し、身体各所を強化できるのがアグレイの能力である。


 短い助走からアグレイは強化した左足で跳躍、常人では考えられない飛躍は煉鎧の頭上を軽々と超えた。


 喰禍で作られた垣根を跳び越え、アグレイは喰禍の指揮官である蟲騎士と相対する。


 蟲騎士とアグレイが対峙する背後でも、戦闘は続いていた。


「はッ」


 キクの気合いと同時に剣となった右脚が薙がれると、煉鎧の腕が切断され地に転がったまま消えていく。


 キクはしゃがんだ状態で両手を地に着き、剣になっているため曲がらない右脚は横に伸ばすことで邪魔にならない姿勢をとっていた。これがキクの通常の構えである。


 逆上したように煉鎧がもう片方の腕で正拳を突きいれたが、キクが左斜め前に跳んで攻撃を躱すと、両手で着地し側転しながら体勢を整える。


 軸足が地を踏みしめ、脚部の刃が縦の軌道を走ると、煉鎧の球体が繋がった形状をした腕の結節点が、寸分の狂いもなく斬り落とされた。


「どう? 逃げてもいいのよ?」


 怒涛の勢いで煉鎧が突進。自棄になったのではなく、それしか手段がないのだ。


 煉鎧の頭部の角がキクの脚に負けじと凶悪な光を放つ。煉鎧が間合いに踏み込んだとき、キクは時計回りをその身で描き、勢いを乗せてすくい上げるような斬撃を見舞った。


 キクの右脚の刃は煉鎧の胴体の右脇下から胸を裂いて、頭部に抜ける。


 一気に煉鎧の肉体が拡散したかと思うと、それは砂嵐のようにキクの全身を打った。不快そうに首を振って前髪を払うキクには、一つの傷もなかった。


「キクって娘、強いじゃないか」


 フリッツは目を転じて、別の男女に向ける。


「あいつら、例の入境者か? なんで、あいつらもここにいるんだ」


 フリッツが困惑の視線を向ける先で、ユーヴが岩魔と対峙している。


「これが君たちの子守歌となるだろう。波動の詩!」


 ユーヴの万年筆が終止符を打った瞬間、衝撃波が生まれて数体の岩魔へと襲いかかった。岩魔は成すすべなくその空間の波に飲み込まれて塵へと帰っていく。


「岩魔は全滅させた。残りは君だけ……うわぁ!」


 煉鎧が振り回す拳から全力でユーヴは逃げる。


 高度の能力を行使できても、ユーヴの身体能力は平凡な男性のものだった。やや無様に頭を抱えて地面に伏せるのが精いっぱいだった。


 仲間の仇を晴らすため煉鎧は握り拳をユーヴに振り下ろす。


「わわわ、リューシュ君!」


「できましたわ」


 目前の獲物に夢中でもう一人を失念していた煉鎧は、声がした方に首を向けた。


 煉鎧は極太の矢が自身目がけて飛来したのを認識できたろうか。上体が爆砕し、下半身だけが徐々に塵となる今となっては、知る術もない。


「あとは蟲騎士だけですわね」


 リューシュの笑顔に対し、ユーヴはどうにか愛想笑いを返すだけだった。


「来いよ。それとも、俺からいくか? どっちでもいいぜ」


 アグレイは挑発するように蟲騎士に言った。


 それを理解しているのか、いないのか、蟲騎士はゆっくりと四本の手で持った巨剣を振りかぶる。


 アグレイが地を擦るように足を進めるのに合わせ、蟲騎士も半身になった。どこを見ているか分からない独特の複眼が不気味さを際立たせている。


 緊張した空気ほど、針で突くほどの些細な刺激で破られる。


 眼球の表面に幾千ものアグレイの姿を映していた蟲騎士は、一瞬の加速をえるためアグレイの筋肉が盛り上がると同時に、高々と上げていた剣尖を地面と平行にして踏み込みつつ刺突を放つ。まさに豪速。


 アグレイが身体の中央を貫かれた、と見えたのは残像で、本体は紙一重で横に移動していた。寸前で避けたのは格好をつけたのでなく、単に余裕が無かったのだ。


 最初の一手が外れても、四本の腕があるのが蟲騎士の強みだ。瞬時に慣性を殺して横殴りの斬撃に移行する。


 その直線上にあったアグレイの首は、身を屈めたことで断頭の刑を免れた。さらに、斜めに刃を斬り下げる袈裟斬りが続く。


 アグレイは左手を強化し、体捌きと連動して剣の腹を拳で受け流す。


 数回の攻防の後、蟲騎士が剣を振りかざしたのに乗じ、アグレイが懐に飛び込んだ。


 アグレイは剣の柄を握って動きを封じようとするが、蟲騎士が二本の腕を放してアグレイを突き飛ばし、距離が開くと剣の柄頭でアグレイの額を強打した。


「くぁ……」


 よろめくアグレイの喉元に光の線が走る。


 アグレイはわざと後方に倒れ、無機質な煌めきが視界を横切るのを見上げた。寝ている体勢で膝を額に着けるほど曲げ、それを戻す勢いと上半身のバネを利用して跳ね起きる。


「さすがに雑魚とは違うな」


 防御の構えで身を固めたアグレイは呟いた。


 同じ駆逐型喰禍でも、煉鎧と蟲騎士では別格である。剣を振り回すのではなく、人間の名人にも見劣りしない熟練した技量を持っていた。


「だが、俺も少しはやるぜ」


 アグレイの右足が燐光を帯びる。


 地を蹴ってアグレイは肉迫し、蟲騎士が振り払うような斬撃で応じた。かろうじてアグレイが刃の下をかいくぐり、その頭髪が数本宙に舞い散る。


 足を踏み出しながら身を沈めたアグレイが放ったのは水面蹴りだ。


 その一撃は蟲騎士の両足を弾いて転倒させる。が、蟲騎士が倒れてきたのはアグレイの真上だ。このままではアグレイは押し潰されるしかないだろう。


 これが、アグレイの狙いだった。


 蟲騎士が覆いかぶさってくる下で小さく後方宙返りし、手を地に着けると上下逆転した視界で、倒立するように蹴り上げる。腕を伸ばすのと、折り畳んでいた脚部を跳ね上げる動作を連動させ、全身の筋肉を(たわ)めた力を一挙に解放した。


 収斂させた蹴りの衝撃は、蟲騎士の身体を上空に巻き上げる。剣を落としてとり乱したように空中で手足を震わせる蟲騎士を追って、アグレイも飛翔。


 空中で同じ高さに達すると、アグレイが渾身の踵落としで蟲騎士を打ち落とす。


 蟲騎士は石畳に激突してそれを陥没させ、石の欠片が飛び散った。すでに蟲騎士は戦闘不能であり、末端から塵となっていく。


 その横に悠然とアグレイが着地し、仲間の無事な姿を確認していた。


「やるじゃねえか、お前ら」


 ユーヴ、リューシュが駆け寄ってくる。二人はアグレイを囲み、ユーヴは楽しげに何やら騒ぎ立て、リューシュは黙って笑顔を浮かべている。


 キクは黙然とアグレイの正面に立っていた。それでもアグレイが掌を出すと、自らの手を打ちつけて軽やかな音を立てた。


 遠巻きに眺めるフリッツ以下の警備隊は驚きに目を疑うばかりだ。


 まさか四人だけで十倍に匹敵する喰禍を葬ったとなれば、人間業ではない。だが彼らの雰囲気は、勇士というよりも、仲のよい家族のようだった。

アグレイの相棒であるフリッツと仲間勢の対面でもあります。

フリッツからすると、よそ者が何で戦っているんだ!?となりますね。


蟲騎士を倒したアグレイ。

この蟲騎士というのが、作中では一番強い雑魚敵になります。

いると厄介ですが、蟲騎士よりも強い敵がここから出てくる予定です。

雑魚は雑魚ですカラ。

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