27話 星の空洞 6
ギルドにつくなり空いた席に腰かけ、食事をとりながら待つこと数分。聞き覚えのある声がヒロシを呼ぶ。
「ヒロシさん! ここにいたのか!」
テーブルに駆け足で寄ってくるブラスと魔法使い2人。先ほどのワールドアナウンスでやはり注目を浴びているのか、有名人の登場にギルド内が騒がしくなった。
「ブラス、みんな、無事だったのか! 本当に良かったよ」
「リリスさんに助けられたんだ。いや、それより……本当にすまねぇ!」
「な、なに?」
勢いよく頭を下げるブラスにヒロシは困惑した。あまり目立ちたくないのでやめてほしいのだが。
「生産職のあんたが危険な目に合ったのは俺の責任だ。なんと言われようが……いてっ」
「真面目過ぎよお兄ちゃん、困ってるじゃない」
「わ、私にも責任があると思いますっ、ブラスさんだけのせいじゃないです!」
金髪の少女がブラスを叩く。続けて黒髪の女性が意見を口にした。ヒロシにとっては見慣れたノリである。
「ふん、心配したんだから」
「ヒロシさん、無事でよかったです!」
「ありがとう、2人とも」
ホッとした様子のシスと少し涙ぐんでいるトモエに、なんだか照れ臭くなってしまった。シスたちもまさかずっと見られていたとは夢にも思っていないだろう。
「あー、ブラスさん、今は皆が無事だったことを祝おうよ。誰も悪くないからさ」
「そうよ、夕食にしましょう。あと、お兄ちゃんはあっちで話を聞きたそうにしてる連中をなんとかしてちょうだい」
「ヒロシさん、シス……そうだな、飯にするか!」
「あ、私、お気に入りの魚料理があるんです。味は薄いですけど、その、よかったらどうぞ……」
それからギルドは祝賀会のような流れになり、他のプレイヤーも交えて持ち寄り形式の夕食を楽しんだ。
ブラスが星の空洞のドロップアイテムを渡そうとしてきたり、魔法少女リリスの話題でヒヤヒヤしたりと色々あったが、なんだかんだで騒いでいるうちに解散の時間になった。
「ヒロシさん、トモエさん、パーティを組んでくれてありがとな。2人とも、よければ俺たちとフレンド登録してもらえないか?」
「お兄ちゃん……まあこの2人ならいいわ。貴重な14枠のひとつ、持っていきなさい」
フレンド機能は便利だが枠が限られており、トラブルの原因にもなるため信頼できる相手のみを登録するのが暗黙の了解になっている。
とはいえ枠の数はレベルと連動しているため、フレンド上限が999のヒロシにはあまり関係のない話だが。
「ありがとう」
「きょ、恐縮です……」
ブラスとシスは常に行動を共にする予定のため、ブラスとヒロシ、シスとトモエという組み合わせで登録し合い、最後にヒロシとトモエもフレンドになった。
「これからもよろしくな。また何かあれば一緒に組もうぜ」
「何か困ったことがあれば私とお兄ちゃんもすっ飛んでいくから、遠慮なく連絡しなさい」
「そうさせてもらうよ」
「お、お世話になりましたっ!」
別れの握手をしたのち、それぞれが冒険者ギルドを後にする。
ただしヒロシは残り、満腹度が全快するまで食事を続ける。数十人前を食べなければならないのはその膨大なスタミナ量ゆえである。
そんな折、ビデオ通話の通知が来たのでギルドの小さな会議室のひとつに駆け込んで鍵をかける。
『やあ、久しぶり』
「レイナか。……ずいぶんと酷い顔だね」
『ふふ、アプデの準備とバグの修正に追われていてね。サービス開始前から寝不足なんだが、そろそろ化粧でも誤魔化せなくなってきたか』
画面に映し出された青髪の少女は目元にクマができており、実に不健康そうであった。なんだか親近感が湧いてくる。
「ゲームの中なんだし、睡眠くらいどうにでもできるんじゃないの?」
『眠気を消すことはできるが、いつか脳がバグって大変なことになるのさ。好きでやっていることだし気にしないでくれ。ということで今回は手短に済まそう』
レイナがそう言うなりチャットにプレゼントのアイコンが出たので押してみる。
今回のプレゼントは前回と同じエナドリのセット、そして【ハデスの兜】という装備だった。取り出してみると、半透明で形が分かりづらいが確かに兜のようだ。
【ハデスの兜】〈頭:兜〉HP-50000 VIT-100 SPD-100
装備スキル:【不可視・真★20】
装備条件:VIT100、SPD100、MGC100
解説:装備者の姿を消すといわれる伝説の兜。装備者に大いなる制約を課すが、MPを消費している間だけ存在を完全に隠蔽することができる。
「癖のある装備だな……。というかスキルのコストが上限を超えてるんだけど」
『装備スキルのことだね。それは装備している間だけコストに関係なく使えるようになるんだ』
「外付けってことか。ステータスの低下がすごいけど、それに見合ったスキルなのか?」
『もちろんだ、【不可視】スキルはその名の通り誰からも見えなくなる効果がある。いろいろ悪さができそうだろう?』
試しにハデスの兜を装備し、スキルを使用してみると体が半透明になった。おそらく他人からは全く見えない状態なのだろう。
動いてもスキルを使っても解除されないようだが、MPの消費量が自然回復を上回っているようで緩やかにMPが減っていく。それでもスキルの効果からすれば破格だ。
「ずっと隠れたまま攻撃できるとか、さすがにまずいんじゃないか……?」
『いやいや、本来なら数秒で効果が切れるように調整してある。だが、キミの場合最大MPが有り余っているからね。それに器用さが高いと消費MPが軽減される仕様だから、想定よりずっと長く使っていられるということだ』
「へー。器用さも捨てたもんじゃないな」
効果がわかりづらいため死にステなどと揶揄されている器用さだが、それなりに役に立つらしい。
「で、こんなものを渡して何が目的なんだ?」
『いやあ、キミがあまりにもプレイヤーと関わろうとしないからさ、ぶっちゃけつまらなくてね。ボクがせっせと働いてる中でスローライフなんて見せつけられたら、意地悪したくなるのも仕方ないだろう?』
「はぁ……そういうことか。また理不尽なクエストを出すつもりだろ」
『キミの行動次第ってことさ。その兜をうまく使えば目立たず介入できるだろうし、もっとボクを楽しませてくれ』
「……考えておく」
スローライフを送る気満々だったヒロシは新たな悩みの種に辟易しながらも、目立たずに介入するための計画を練り始める。
『ふぁぁ、そろそろ仮眠を取ったほうがよさそうだ。魔法少女の件でからかうのはまた今度にしよう。では失礼』
「こいつ……! 切るの早っ!」
最後に余計なことを言ったレイナはそそくさと通話を切った。
ヒロシはため息をついて立ち上がり、部屋を出る。ギルドもすっかり暗くなり、ランタンに照らされた酒場は日中とは違う雰囲気を醸し出している。
一度大きく伸びをしたヒロシは食事を中断し、帰路につくのであった。




