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26話 星の空洞 5

 狭い横穴は緩い下り坂になっており、かなりの距離を歩いても敵が出てくる気配はなかった。

 道中には原石がいくつか存在し、ブラスやトモエが破壊しようとしたがまるで歯が立たず、凄腕鉱夫ヒロシの不在が悔やまれた。長い時間をかければ壊せたかもしれないが、リリスが急いでいるようだったので諦めることにした。


 やがてたどり着いたのはドーム状の巨大な地下空間だった。

 天井に散りばめられた水晶がプラネタリウムのように星々や銀河を模り、地面に満たされた水が鏡面となり景色を反射する。

 境界線の付近には暖色系のクリスタルが外周に沿って密集しており、まるで黄昏時を体現しているかのようであった。


「すっげ……」


「綺麗ね……」


 幻想的な光景に一同が感嘆する。

 水に足を踏み入れるとひざ下の深さまで沈み、心地よい冷たさが疲労を癒す。

 しかし、遠くに見える巨大な影を見て警戒を強めた。


『Area Boss: 黄金の巨大ガニ Lv.25』


「エリアボスじゃねぇか。どうやら道は正しかったみてぇだな」


「美味しそうなカニじゃないの」


「わぁ、キラキラしてますね」


 エリアボスは各エリアの最奥に存在し、基本的にそのエリアで一番強いとされているボスだ。その分報酬も相応なものになっており、さらに世界で初めて討伐した場合レアドロップが確定する。


「では、デカいのぶっ放しますね」


「お、おい、なにする気だ?」


 ステッキを構えたリリスは魔法のチャージを始める。

 思い返せば彼女は今まで一度もチャージをしてこなかった。魔法スキルはチャージすることで威力が大きく変わるにもかかわらずだ。

 リリスのステッキが白く発光し、その輝きを増していく。空間が捻じ曲がるような巨大な力が集まっているのを感じる。


 しかし、ただならぬ攻撃を察知したのかエリアボスが動き出し、乱入禁止結界が作動する。巨大ガニはリリスの魔法を阻止するべく横歩きで距離を詰めてきた。


「させないわ! 【アイス】!」


「【ボム】!」


 シスが水面を凍らせてカニの動きを阻害し、トモエはノックバック効果の強い爆弾の魔法を放つ。

 しかしカニの巨体はそれをものともせず突き進み、水の槍を複数生成して時間差でリリスに向けて放つ。


「させるか! 【ガード】【ガード】【ガード】【ガード】ッッッ!」


 ブラスがジャストガードを連続で成功させて槍を全て受け止める。

 受けたダメージはシスがすかさずポーションを投げてフォローした。


 攻撃は無意味だと悟ったのか、巨大ガニは体の前でハサミを交差させ、光の膜を張って防御の構えを取る。

 一方でリリスは魔法を溜め終わろうとしており、凝縮された力が水面に大きな波紋を生み出している。ステッキの先は虹色の星が舞うエフェクトで彩られていた。


「フルチャージ完了――【レインボービーム】」


 杖先から巨大ガニへと走る一筋の細い線。

 それは一気に極太の光線と化し、周囲を白く照らしながら敵の巨体を飲み込む。

 そして終わり際に一際眩しい爆発を起こし、巨大ガニは暗天に描かれた壮大な虹の下で華々しく散っていった。


「ま、まじかよ……」


「エリアボスをワンパンって……」


「ほぇぇ……」


 3人が唖然としていると、リザルト画面に加えてアナウンスが流れた。


『♦ワールドアナウンス♦

【星の空洞(隠しエリア)】で『Area Boss: 黄金の巨大ガニ Lv.25』が初めて討伐されました。

パーティ名:〈ブラスターズ〉

メンバー:ブラス シス トモエ 魔法少女リリス』


 エリアボスの初討伐は全てのプレイヤーに通知されるため、隠しエリアの存在とボスのレベルの高さに多くの者が驚愕することになるだろう。


「……これは騒ぎになるわね」


「俺、ほぼ何もしてないんだが……。リリスさん、ドロップアイテムとゴールドはあんたに権利があるから全部返すぜ」


「いえ、貸しということにしておきましょう。将来有望なパーティへの投資です」


 さらっと言ってのけたリリスにブラスたちは唖然とする。前代未聞の隠しエリアのエリアボス、それも世界初討伐となると戦利品の価値は計り知れないというのに。


「この借り、とてつもなく高くつきそうだな……」


「もらえるものはもらっておきましょう? もちろん、もっと強くなって借りを返すわよ」


「わ、私までいいんでしょうか……?」


「いいから行きますよ、出口はまだ見つかってないんですから」


 巨大ガニが消えた後、奥の壁が一部だけ崩れていたのでそこに向かう。大きさからして巨大カニの巣穴なのかもしれない。

 水から出て坂をしばらく上っていくと、やや開けた空間に出る。

 そこには巨大な黄金のクリスタルを中心に大量の原石が所狭しと密集しており、その手前には探し求めていた簡易神殿が存在していた。


「神殿よ! やっと帰れるわ、ありがとうリリスちゃん!」


「ああ、あんたがいなけりゃ甲殻類の餌食になってたところだ。本当にありがとな」


「わ、私からも感謝を!」


 3人が礼を述べると、リリスは照れ臭そうにそっぽを向いた。


「どういたしまして。では、私はこれで失礼します。またご縁があれば」


「え、ちょ、あ、ありがとな!」


「またねリリスちゃん!」


「おっ、おちゅか……れさまですっ!」


 欠片に触れ、そそくさとワープする魔法少女を3人は見送る。


「はは、すごい人だったな……」


「夢でも見ていたのかしら」


「濃密な1日でしたね……」


 トモエの一言にブラス兄妹は心から同意しつつ、しばらく余韻に浸るのであった。



***



 黄昏時。

 一足先に王都へ帰還した魔法少女リリスは目にもとまらぬ速さで裏路地に駆け込む。

 その直後、ハートが飛び散るようなエフェクトが全身を包み込み、中から布の服を着た青年が現れた。ヒロシである。


「危なかった……。2時間ってこんな短かったか?」


 ブラスたちと行動中、ヒロシは女体化ピアスの効果時間が減っていくのを見てずっとヒヤヒヤしていた。エリアボスの近くに神殿を見つけたときは危うく歓喜のあまり叫ぶところだった。

 変身時に強制的に設定された魔法少女とかいう謎の職業とスキルも即興で何とか使ったが、あの威力にはヒロシもドン引きだった。


 なんにせよ、名演技(?)でヒロシだと悟られないまま神殿までブラスたちを護衛できた自分を褒めたい。


「さて、今度はヒロシ(・・・)としてブラスたちを迎えないと」


 何食わぬ顔で裏路地を出たヒロシは早歩きで冒険者ギルドへと赴いた。


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