25話 星の空洞 4
それからというもの、魔法少女リリスの力は圧倒的だった。
どんな魔物も見たことのない魔法で正面から粉砕していき、ますます謎が深まるのであった。
(最初に助けてくれた時のあのビーム……もし俺に当たってたら死んでたのでは?)
そんなことを考えながら身震いするブラスだが、もちろん口に出すことはない。
近づかれる前に敵が死んでいき、あまりにもやることがないので先の戦闘で減った満腹度を回復させるべく食べながら移動していた。
「何度見ても規格外の威力ね。同じ魔法使いとして自信なくすわ……」
「わ、私もまだまだだと思い知らされます……」
「あー、私がおかしいだけです。気にしないでください」
「そういわれてもねー。よし、お兄ちゃん、無事帰れたら修行よ!」
「はぁ? 毎日が修行みたいなもんだろ?」
「言ってみただけだしー」
軽口を叩いていると、ふいにトモエが足を止める。
「ん? どうしたトモエさん」
「あ、あの、気のせいだったら申し訳ないのですが……地面が揺れていませんか?」
「そうかしら?」
トモエの指摘に一行が足を止める。
ブラスも最初は何も感じなかったが、次第に振動のようなものが感じ取れるようになった。それも、時間が経つにつれて大きくなっている。
「本当だ。全員警戒!」
「ど、どういうことなの?」
しばらくすると揺れに加え、岩が砕かれるような音も聞こえ始める。
「この音……後ろからだ。やべぇ予感がする」
「お、お肌がジリジリします」
「ねぇ、逃げたほうがいいんじゃないの、これ?」
シスがそう言った瞬間、奥の横穴から蛇のような巨頭が現れる。
濡れた群青色の鱗は洞窟の岩肌と同じく星空のように輝き、見るものを魅了する美しさがあった。
『Raid Boss:シーサーペント Lv.50』
天井との隙間がないほどの巨体を誇る大蛇は動きを止め、閉じていた目をカッと開く。そしてブラスたちの方を向き、鋭利な牙を剥きだしにして威嚇した。
「シュルャァァァァァァ!!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
「きゃぅぅぅぅぅ!」
「うげぇぇぇぇぇ!」
「わー」
悲鳴を上げた4人はすぐさま前へ駆け出した。
「なんとかしてよお兄ちゃぁぁん!」
「抜かせ、絶対倒せないタイプの魔物だろあれ! 負けイベ、いや逃げイベだ!」
「こわいですぅぅぅ……!」
「こけないでくださいねー。30メートル先右折しましょう」
ひとりだけやけに落ち着いている魔法少女を除き、全員が必死の形相で化け物から逃走する。どこからどう見ても捕食者と被食者の図である。
分岐路でやや狭い道に入るが、大蛇も強引に突っ込み壁を削りながら突破していく。
「蛇だかウツボだかしらないけどしつこすぎ! お兄ちゃんそろそろスタミナがヤバいんですけど!」
「だーっ、しょうがねぇ! 俺が背負う!」
ステータスの補正で現実よりはずっと楽に運べるが、バランスがとりにくいので速度がやや落ちてしまう。
幸いなことに大蛇も速度を落とした……と思いきや、口から水のレーザーを発射してきて回避を強いられる。
「ひぃぃぃぃっ!」
「んなのアリかよッ!」
「任せてください。【マジカルウォール】!」
リリスの魔法により、半透明なピンク色の障壁が空中に出現する。
だが、その膜は彼女の背中をギリギリ覆うだけにとどまった。
「そりゃないぜリリスさんっ! もっと大きくしてくれよ!」
「つ、使うの初めてでしたので。で……どうしましょう?」
「チューニングよチューニング、訓練所行ってないの!? イメージするのよ、薄く広く伸ばす感じで!」
「そのっ、強度を犠牲にして範囲を広げる、ということです! 【パリィ】!」
「なるほど、あれチューニングって言うんですね」
アドバイスを聞いて頷いたリリスは障壁を解除し、再び張りなおす。
すると今度は4人を囲む大きさの障壁が現れた。リリスの動きに合わせて追尾するようで、大蛇の攻撃をしっかりと阻んでいる。
「やるわねリリスちゃん!」
「ありがてぇ! 動きづれぇし鎧外させてもらうぜ」
「助かりますっ!」
障壁のおかげで多少の余裕が生まれた。前方に時折出てくる敵もリリスの【レインボービーム】で消し飛んでいく。
シスとトモエも機転を利かせて天井の脆そうな部分などに魔法を撃ち込み、崩れさせて大蛇の障害物を増やしていた。
それでもなかなか大蛇を振り切ることができないまま、スタミナが苦しくなってくる。
「そろそろスタミナがやべぇ……! 2人は大丈夫か?」
「は、走るのは得意なので!」
「魔法少女の持久力を舐めないでください」
「本当に魔法使いかよあんたら……」
「あ、見てください。狭い道があります」
「でかした!」
リリスが見つけたのは高さが半分ほどになっている横穴だった。
全員がラストスパートをかけるが、なんと大蛇がここにきて急加速をしてきた。
大蛇の質量に押されて障壁は崩れ去り、巨大な口が最後尾のブラスに迫る。
「お兄ちゃん早く早く早くぅぅぅ!」
「動け俺の足ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
バシバシとシスに叩かれながらスタミナの限界を超えて疾走する。
頭から横穴に飛び込むと、大蛇の牙が靴先をかすめたのが分かった。
それから大蛇はしばらく頭を横穴に押し当てて入り込もうとしていたが、やがて諦めたのかゆっくりと去っていった。
「あ……危ねぇ……」
「死ぬかと思ったわ……」
座り込んで一気に息を吐きだすブラス兄妹。こんな逃走劇、二度とごめんである。
「み、みなさん無事でよかったです!」
「道が続いているようです。早くしないと置いていきますよ」
「鬼かよあんた……」
何事もなかったかのように歩き出した魔法少女に慌ててついていくブラスたちであった。




