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23話 星の空洞 1

 激流の中、なんとか手を離さなかったブラスたちは共に地底の小さな池に流れ着いた。


「ぷはっ、2人とも無事か!」


「え、ええ、なんとか」


「し、死ぬかと思いましたぁ……」


 上半身を起こす2人を見てブラスは安堵する。

 水位は低いようで、ひとまず歩いて池から出ることにした。


 身体の水を払いながら、シスが不安そうに口を開く。


「……ねぇ。あいつ、大丈夫かしら」


「パーティメンバーの一覧に名前が乗ってねぇ。多分、距離が離れて脱退扱いになったんだろう」


「ヒロシさん……」


 一行が暗い面持ちでいると、それぞれの目の前にウィンドウが現れる。


『Boss:巨岩ヤドカリ Lv.15を倒しました。

640の経験値を獲得しました。

3750Gを獲得しました。

ハサミの欠片(E級)x2、魔物の触覚(E級)x1を手に入れました。』


「お兄ちゃん、これってあのヤドカリが勝手に死んだってこと?」


「結構HPが残っていたように見えたが……殻がない状態だったし、流されてる途中でどっかにぶつかって死んだのかもな」


「え、じゃあ、あいつは……」


「そ、そんな……!」


 顔を青ざめさせる2人を見てブラスは失言に気づく。


「お、落ち着けって、さっきのは移動の演出で、きっと俺たちと同じく別のところに流れ着いてるはずだ。ヤドカリも案外ヒロシさんが倒してたりするかもだぜ?」


「……ふふ。そうね、ちょっと元気出たわ。進んでいけば彼と合流できるかもしれないし、悩んでる暇なんてないわね」


「うし、まずはヒロシさんの捜索と神殿の確保だ。トモエさんも力を貸してほしい」


「も、もちろんですっ! 頑張りましょう!」


 気を取り直した3人は洞窟を進んでいく。

 やがて開けた場所が見えてくると、その美しい光景に皆が息を呑んだ。

 薄暗い洞窟の中、あちこちから様々な色の鉱石が発光し、それを濡れた岩肌が反射することによって全方向に星空と見まがうかのような景色を生み出している。


 しかし、3人は進むにつれ違和感を覚え始める。

 肌が痺れるような、不快な感覚が強くなっていく。


「あ、あの、これは一体……?」


「お兄ちゃん、この感じ……」


「ああ……このゲーム、やべぇ場所や敵に近づくと肌がぴりつく仕様らしい。こんなにあからさまなのは初めてだ、相当やべぇとこに放り込まれたのかもな」


 そんな推測を裏付けるかのように、エリア情報と警告が表示される。


『星の空洞(隠しエリア) 推奨Lv.20~』


『警告:エリアの推奨レベルを下回っています』


 OLWが提示する推奨レベルというのは、最低限として推奨されるレベルの目安である。プレイヤースキルで強さが変動しやすいVRMMOとはいえ、レベル差が5を超えるとステータスの差が顕著に表れることが多い。


「ははっ、推奨レベル20か。笑えねぇなぁ!」


「笑ってるじゃないの、ばか」


「そういうシスだって口元釣り上がってるじゃねぇか」


「気のせいじゃない?」


「あわわわわ(なんでこの2人笑ってるのぉ!?)」


 退路はなく、神殿も見当たらない。

 絶体絶命のこの状況に笑う兄妹と、ノリについていけずに彼らを二度見するトモエというちぐはぐなこのパーティ。3人には前進する以外の道は残されていなかった。



***



 一方、その少し前。

 別の池に滝から投げ出されたヒロシは暗い顔をしていた。


「特殊条件……どう考えても俺のせいだよなぁ」


 別れる間際にいい感じのことを言ってお茶を濁したが、ブラスらもそのうち冷静になってヒロシを責めることだろう。


 そもそもどうしてパーティを組むことになったのかというと、経緯はこうだ。

 初のレイナクエストを終えてはや2週間、自由を手にしたヒロシは鉱夫に転職して各地の鉱床を巡り、なんちゃってスローライフを満喫していた。

 鉱石を売って稼いだゴールドで食料も数日分確保でき、そろそろ別のことをしようと考えていた矢先、レイナから新たなクエストが出される。


『レイナクエスト:仲間との絆! が発生しました。推奨Lv.なし

クリア条件:2人以上のパーティで未討伐ボスを倒す(*NPC等は含まれない)

失敗条件:クリア条件を満たさず7日経過(残り6日)

報酬:???

*このクエストに失敗するとスタッフが全力で殺しに来ます』


 前回に比べればかなり良心的なクエストではあるが、未討伐というのがなかなか難しい。

 近場のボスはあらかた倒されており、最前線に加わろうにも、ろくにプレイヤーと関わってこなかったヒロシに勇者組との伝手があるはずもない。


 なんとか目立たずにクリアできる方法がないか考えながらも、ダメ元で冒険ギルドに赴きパーティの募集をしていないか確認し続けたところ、ブラスが出していた募集を見てこれ幸いと鉱夫として参加した、というわけである。


 しかし、殻を早く割りすぎたせいで変なところに落とされ、ボスにもまんまと逃げられてしまう――ところだった(・・・・・・)


 そう、この男、渦に流される際に大ヤドカリにしがみついていたのだ。


「どこへ行く気かな? 君にはここで消えてもらうよ」


「ギィィィ!?」


 忍び足で逃げようとしていた大ヤドカリの足を掴み、悪い笑みを浮かべたヒロシは予定が狂った八つ当たりも兼ねて一方的にボコボコにした。


「ギギ……ギュゥ……」


 渦で分断されたときにパーティから外れていたこともあり期待していなかったが、討伐後にレイナクエストが達成されたのを見てガッツポーズを浮かべる。


「ラッキー、これカウントされるんだ。あとはブラスたちを探すべきだろうけど……」


 大ヤドカリを蹴って転がしているうちに足を踏み入れていた隠しエリア、『星の空洞』――推奨レベル20と高く、ブラスたちには厳しいだろう。巻き込んでしまった身としては死なれると後味が悪すぎる。

 とはいえ、助ける際に強さが露見してしまうのも問題だ。今更感はあるが、生産職としてパーティに参加していた以上、鉱石を殴ること以外で目立ちたくない。


 ヒロシ自身が目立たず、かつ全員を助けられる方法は限られている。


「……これを使うときが来たか」


 意を決してレイナに渡されたピアスを装備する。現れたスクリーンに提示された複数のデザインを見て顔を引きつらせながらも、2番目のデザインを選択した。


『【Type魔法少女:リリス】に変身します。制限時間は2時間です』


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