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22話 ヤドカリの親玉 2

 一行は洞窟の奥へと進んでいき、途中で洞窟内部の神殿に寄って回復する。

 ワープポイント未開放のヒロシとトモエは宝石に触れて登録しておいた。


 その後も周囲に気を配りながら慎重に移動を続ける。

 大洞窟には独特な魔物が多いが、すでに対処法を見つけているブラスのおかげで被害は少ない。

 まず、攻撃を受けると相手の得物を飲み込んで硬化するロックスライム。これはスライムごと武器を持ち上げて地面に叩きつけるか、先に軽く叩いて硬化したところを殴れば倒せる。

 他には全身が石と砂でできたロックゴーレム。砂に水を吸わせて結合部を狙えばダメージが通りやすい。

 さらに特殊なものでは、つらら石に擬態して天井から飛び掛かってくるフォールバットという初見殺しの魔物もいる。これに関しては頭上に注意して魔法で先制攻撃を仕掛けるのが吉である。


 入り口に入って4時間ほど経過した頃、ブラス一行は子ヤドカリのいる通路まで足を進めていた。

 ヒロシがまたもや一撃でヤドカリの殻を破壊して皆を驚かせたが、おかげで討伐速度が上がり増援が来ても危なげなく対応できていた。


「いよいよだ。見えてきたぞ」


 ブラスの視線の先には光差し込む大空洞があった。

 その中心には、前回と同じように大岩が鎮座している。


「お、おっきい岩ですね……!」


「そう、あれがボスよ。お兄ちゃん、見せてあげて」


「おう」


 ブラスが投げた小石が当たると、持ち上がった岩の下から親玉が姿を覗かせた。


『Boss:巨岩ヤドカリ Lv.15』


「わ、綺麗ですね! ……いや、冷静に見ると大きすぎて怖いです」


「近くで見るともっとでかいぜ。あのハサミだって気ぃ抜いたら真っ二つだ!」


「ちょっとお兄ちゃん、トモエさんを怖がらせないで! 震えてるじゃない!」


「わ、悪い……」


 顔を真っ青にしているトモエにブラスは申し訳なさそうに謝る。

 ボス戦前とは思えないやり取りだが、おかげで皆の緊張も程よくほぐれていた。


「それじゃあ気を引き締めなおして、全員打ち合わせの内容は覚えてるな? 命大事に、行くぞ!」


「「「おー!」」」


 気合を入れた4人が空洞に踏み込み、慎重に大岩に近づいていく。

 気づかれるギリギリのところまでくると、ブラスがヒロシに目配せした。


「当てたらすぐに逃げてくれ。俺がカバーする」


「了解。なるべく多く削るよ」


 初撃担当はヒロシの立候補により決まった。狙いは殻で、起き上がる前に速攻で叩きつける作戦である。


(そういえばスキルのチャージって今回が初めてか)


 戦闘職で訓練所に行けば誰もが教わることなのだが、気ままにプレイしてきたヒロシにはその辺の知識が抜け落ちていた。

 【スマッシュ】をチャージし、パッシブスキルの【鉱物知識・F級】で弱点を探る。幸い殻の等級はFだったようで、いくつか見えた小さな点から地面に一番近いものを狙う。


「ひ、ヒロシさん、なんかツルハシからやべぇオーラが……」


「【スマッシュ】!」


 素早く踏み込み、最大限まで溜められた一撃を全力で放つ。

 ツルハシの先は余りあるDEX値の補正により寸分の狂いなく弱点を穿ち、【洞窟適応・小】で限界を超えたPOWとSPDが爆発的な運動エネルギーを生み出す。


 結果――巨岩ヤドカリの殻は一撃で崩壊した。


「ギィィィィィィ!?」

「なぁっ!?」

「はぁ!?」

「にゅ!?」


 ヒロシ本人も困惑している中、いち早くブラスが状況を把握する。


「ダウンしたぞ、攻撃を叩き込め! 左右から子ヤドカリ2匹、俺が引き付ける!」


 素早い指示により、シスとトモエが事前にチャージしていた魔法を放つ。

 ぐったりした様子の大ヤドカリは弱点である腹に猛攻撃を受け、みるみるHPを減らしていった。


 HPが3割ほど減ったところで大ヤドカリは起き上がり、身軽になった体で後ろに大きく跳躍する。そしてドリルのようになっている腹の先端を地面に突き出し、新たな殻を掘り出した。

 しかしHPが減っていたためか、再び殻に籠り回復に専念し始めた。


「また引きこもりやがった。ヒロシさん、頼む!」


「……わかった!」


 手加減しておけばよかったかなと思いながらも、開き直ったヒロシは再び全力のスマッシュを繰り出す。

 言わずもかな殻は再び砕け散り、大ヤドカリは無防備な状態を晒した。


「今だ、攻撃を……待て、様子が変だ!」


 ダウンすると予想していたブラスだが、大ヤドカリはふらつきながらもなんとか踏ん張り、後方に跳躍する。


『特殊条件:60秒以内に外殻を2度破壊する を達成しました。

ボスが特殊形態に入ります。』


「特殊……条件?」


 皆がなんとなくヒロシの方を見ると、彼は目を逸らした。


 その間にも地面を掘っていた大ヤドカリは目当てのモノを見つけたのか、床に亀裂が走るほど全力で引っ張る。

 勢いあまって一回転しながら着地した大ヤドカリが身に着けていたのは、ダイヤモンドのようにきらめく殻だった。


「わぁ、綺麗ね!」


「ほんとですね!」


「2人とも現実に戻れ! 見るからに硬そうだが……ヒロシさん、試してみてくれるか?」


「……やってみる」


 透明な殻に籠った大ヤドカリは心なしか余裕そうな様子でヒロシを見下ろしていた。割れるものなら割ってみろといわんばかりに。

 鉱物知識による弱点が見当たらないということは、少なくともE級以上という扱いなのだろう。であれば力でごり押しするほかあるまい。

 あいさつ代わりにツルハシを叩き込むと、やはりというべきか弾かれてしまう。しかし、殻の耐久ゲージは目でわかる程度には減少していた。


「いけるぞ! 総攻撃だ!」


 魔法使いの2人と、いつのまにか子ヤドカリを倒していたブラスも加わり、殻にはみるみる亀裂が入っていく。

 ヒロシがとどめの【スマッシュ】をぶち込むと、殻は輝かしい破片となって砕け散った。


 またもやふらついた大ヤドカリは虚をつかれたかのように右往左往したのち、一行を飛び越えて空洞の中心に戻る。そして再び地面を掘り始めた。


「まだ何かあるのかよ!」


 いっそ今のうちに攻撃してしまおうかと思案するブラスだったが、地面が揺れ始めていることに気づく。


「いつもに増して長いわね……。何を取り出す気かしら」


「揺れが激しい。一度離れて――」


 ブラスが指示を出そうとした矢先。

 床全体に巨大な亀裂が走り、中心から崩れ落ちていく。


「くっ、みんな手を!」


 とっさにブラスがシスの手を、シスはトモエの手を掴む。

 しかし、ヒロシはというと次の殻を割るべく大ヤドカリの間近で待機していたため、一足先に落ちてしまっていた。


「「ヒロシさんッ!」」


 3人が駆け出そうとした瞬間、浮遊感に捕らわれ踏ん張りが利かなくなる。

 落ちながらも必死で手を伸ばすが、届きそうにない。


「俺は大丈夫だ。2人を頼んだよ、リーダー!」


「そんな、ヒロシさん!」


 やがて空洞の終わりに水面が見えてくる。そこにはいくつもの渦が複雑に絡み合っており、ヒロシはヤドカリと共に中央の渦に吸い込まれていく。


 やや遅れて残りの3人も水流に巻き込まれたのであった。


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