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21話 ヤドカリの親玉 1

 打ち合わせを終え、大洞窟の入り口にワープしたブラス一行は道中の敵を相手に共闘し、お互いのプレイスタイルを確認していた。


 敵は2体のロックリザード――硬い肌を持つ全長3mのオオトカゲ。尻尾の先についた岩の塊を器用に振り回し、前衛のブラスを防戦一方に追い込む。

 だが、それでいい。敵をひきつけることこそ彼の役割であり、後衛にはシスとトモエ、2人の攻撃担当がいるのだ。

 敵がそちらに向かおうとしても、重戦士には味方を守るのに適した職業スキルがいくつもある。

 最初から使えるのはヘイトを稼ぎ敵の注意をひきつける【シャウト】と、最寄りの味方に高速で駆けつける【カバー】。職業ランクAでは味方と位置を瞬時に入れ替える【キャスリング】を習得する。


 しかし、それよりも特筆すべきは攻撃を捌く技術である。ブラスは盾とスキルを駆使し、うまく立ち回ることで受けるダメージを最小限に抑えていた。パーティにヒーラーを入れずにやってこられたのはまさしくこのためだろう。


「あっ、後ろからもう一体来てるよ。ロックリザードだ」


「えええっ、どど、どうしましょう!」


 戦いが順調に進む中、後衛に挟まれて突っ立っていたヒロシが背後を指さす。

 OLWではパーティの人数が多いほど敵の増援が来やすい仕様になっている。常に2人でやってきた〈ブラスターズ〉にとっては不慣れな状況だ。


「くっ、シャウトはクールタイム待ちだ! このままじゃまずい、一度集まって最初の2匹を壁にするように時計回りに移動するぞ!」


「ええ!」

「わかった」

「は、はい!」


 ブラスが出したとっさの指示により、一行はなんとか挟み撃ちを免れる。

 しかし、無理に敵をひきつけようとしたせいでブラスは一撃をまともに食らってしまい、その隙に1匹がすり抜けて後衛に迫る。


「しまっ……! 危ない!」


 叫ぶブラスだったが、残る2人をかばうように前に出たのは意外な人物――トモエだった。


 驚くシスとヒロシを置いて飛び出したトモエは無表情でロックリザードと対面する。

 重い尻尾の先端が横から迫るが、瞬時に間合いを詰めて尻尾の根本を飛び越えるように回避した。

 そのまま流れるような動きで金属製の杖の先端を敵の首元にあてがい、敵の硬直が解けるまでの間少しでも長くチャージして魔法を使う。


「射程最小、威力最大――【ファイア】」


 太陽の如き煌きが杖の先端に宿る。

 振り降ろされた杖が硬い肌を容易く裂き、首の半ばまでめり込む。


「ギィィィィィ!?」


 大ダメージを受けたロックリザードが悲鳴を上げながらその場で暴れまわった。

 しかし、トモエはすでに離脱して別の魔法のチャージを始めていた。


「【マルチファイア】」


 5つの炎弾がそれぞれ意思を持ったかのように襲い掛かり、ロックリザードを塵へと変える。

 その様子を見て唖然としていたシスは、トモエがブラスの加勢に行ったのを見て慌てて戦闘に復帰する。


 トモエの活躍もあって残りの敵はすぐに片付き、一同は息を吐く。

 そのとき、トモエが素っ頓狂な声を上げた。


「あっ……ごめんなさいっ、また意識が飛んでました!」


「「「へ?」」」


 理解が追い付かず、同様に間抜けな声を上げる3人。

 皆の注目を浴びて縮こまりながらも、トモエはなんとか説明し始める。


「その、私、少し特殊な体質でして……。危険が迫ると体が勝手に戦闘モードに入るんです。いつも気がつくと敵が死んでいて……黙っていてごめんなさい!」


 トモエは頭を下げようとするが、それを止めたのはブラスだった。


「いや、あんたが危険な目に遭ったのはタンクの俺がヘマしたせいだ。謝るべきなのは俺だ。トモエさん、ヒロシさん、シス、本当にすまねぇ!」


「そ、そんな、ブラスさんは悪くないです! 私が、私が……」


「はいはいストップストップ、お兄ちゃんもトモエさんも落ち着いて。誰が悪いとかじゃなくて、まずはお礼を言わせて。トモエさん、体質はどうあれ私たちが助かったのは事実よ。その……ありがとう」


 言い慣れていないのか、トモエは少し顔を赤らめて礼を言う。

 間髪入れずにヒロシもそれに続いた。


「俺からもありがとう、トモエさん。すごくかっこよかったよ」


「そ、そんな、無意識でしたことですから! うっすらとしか覚えてないですし!」


「あと、ブラスさんもあんまり自分を責めないでほしい。なんなら俺が第2のタンクとして壁になるから」


「初期装備の生産職が何言ってるのよ。危ないから引っ込んでなさい」


「おいシス失礼だろっ」


 シスを軽く小突いたブラスは頬をかきながらヒロシを見る。


「気ぃ使わせちまったな。あんたの役割は採掘と殻割りだからな、無理しないでくれ。そうだ、実際に原石を掘って見せてくれねぇか? せっかくだしどんなものか見ておきたい」


 ブラスがちょうどいいところにあった原石を指さす。

 見せ場を提供されたヒロシは壁際のF級原石に向かい、少し気合を入れてツルハシを構えた。


「鉱夫がランクBで習得する【鉱物知識・F級】、これは対応する等級までの原石の弱点が見えるようになるパッシブスキルだ。その弱点を正確に叩けば、この通り」


 ヒロシがツルハシを一度振り下ろすだけで、原石は砕け散ってドロップアイテムへと変わった。


「一撃ってマジかよ! 俺のハンマーだと20発はかかるってのに!」


「想像以上ね……これならあの巨大ヤドカリも突破できそうだわ」


「さすがです!」


「ははは、これくらい普通だよ、多分。さあ、先を急ごう」


 実際は鉱夫でも数発かかるものなのだが、生産職がまだマイナーなせいで誰もそのことを知らない。無論ヒロシ本人も。


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