20話 野良パーティ
第3木曜日の朝――冒険者ギルドにて異彩を放つ4人組が話題になっていた。
「お、おい、あのテーブルにいるのブラスターズじゃないか?」
「なにっ、ブラシス兄妹でおなじみのブラス兄貴とシスちゃんか!?」
「王の林のエリアボスをたった2人で倒したってマジ?」
「腕だけじゃなくて見た目も一流って聞いてたが、マジだったんだなぁ。生のシスちゃん、かっこかわいい……」
「見て、ブラス様が腕を組んだわ……! 筋が、筋が浮かび上がって……いけない脳内スクショしなきゃ!」
壁側に座る長身の兄妹は王の林エリアボスの初討伐アナウンスで名が知れ渡っており、並外れたルックスも相まってOLW内でファンクラブができてもおかしくないほどの人気を有していた。
しかし、反対側に座る2人もまた、注目を集めていた。
「あっ、一緒に座ってる人、トモエさんじゃん!」
「トモエ? 誰だそれ?」
「知らねーのかよ、スレで話題になってる黒髪美少女だよ。いや、美少女っていうより美女か? とにかく、魔法使いなのにソロで行動してて、しかも接近戦が鬼強くて【魔女武者】って呼ばれてんだ」
「魔法使いってVIT低いしどう考えても近接向きじゃねぇだろ……」
「ずっとソロだったのに、パーティ組むのかな? ブラシス兄妹なら納得だけど」
【魔女武者】トモエ――その異様な戦いぶりから目撃報告が度々上がっており、その二つ名を知る者は多い。
ブラシス兄妹とは対照的に気弱そうな印象の女性で、とても強そうには見えないが、人は見かけによらないのかもしれない。
服装は学園風のケープにトップス、膝丈のスカートとハイソックス。とても似合っているのだが、本人は恥ずかしいのか居心地が悪そうにしている。
丸い紫紺の眼を伏せ、同色のインナーカラーをしたセミロングの黒髪の上に紺の三角帽子を乗せた彼女はぎこちなく視線を泳がせていた。
「じゃあ、最後の一人は何者なんだ? 初期装備のままみたいだけど」
「どれどれ、名前は……ヒロシ? 聞いたことないな」
「ブラス様に気をとられていたけど、あの人も細身のイケメンって感じでいいわね!」
「あのメンツに違和感なく溶け込んでる時点で只者じゃなさそう」
「いや服は違和感ありまくりだろ」
布の服を身にまとい、ツルハシを背負って席に座る茶髪碧眼の男、ヒロシ。
睡眠不足が解消されたことで気だるげだった表情が改善され、スッキリした顔立ちの美青年がそこにいた。
自然な笑顔を浮かべ、無名でありながら余裕を感じさせる佇まいが周囲の憶測を呼んでいる。
そして肝心のテーブルでは、ブラスが周りからの注目を受けながらも平然とした様子で会話を始めようとしていた。
「パーティ募集に興味を持ってくれてありがとな。念のために確認しておくが、2人ともレベル10以上で大洞窟入り口のワープ解放済み、かつ鉱石に有効な攻撃手段を持っている、ということで間違いねぇか?」
ブラスの質問に反対側に座る2人が首を縦に振ると、彼は満足そうに笑った。
「誰も来ないんじゃないかって心配してたんだが、2人も来てくれるなんてな。おっと、まずは自己紹介をしよう。俺はブラス、〈ブラスターズ〉っていうパーティのリーダーで、耐久に自信のある重戦士だ。職業ランクは最近Aに上がった。そんでこっちが妹の……」
「シス。魔法使いよ。職業ランクはB。あんたたち、パーティに入れてあげてもいいけど、足だけは引っ張らないでもらえると助かるわ」
「おいっ、失礼だろ! すまん2人とも、こいつ人見知りでさ。初対面の相手にはいつもこんな感じなんだ。気にしないでやってくれ」
「はぁ!? そ、そんなんじゃないしっ!」
ブラスが両手を合わせて謝ると、シスが顔を赤くして叩いてきた。
このやり取りで彼女の印象は多少改善されただろう。もっとも、相手の2人はそもそも気にしていないようだが。
「こほん。俺はヒロシ、職業は鉱夫でランクはB、採掘はツルハシとスキルがあるから任せてほしい。生産職だけど自分の身を守れるくらいには強いつもりだ。よろしく」
「おお! 大洞窟エリアにはもってこいの職業だな。聞いてくれヒロシさん、あんたが今回のボス討伐の鍵となるかもしれねぇんだ」
「それは光栄だけど、となりのお嬢さんの自己紹介がまだだよ」
「っと、悪いな嬢ちゃん。改めて、自己紹介してもらえるか?」
話を振られた少女は恥ずかしがり屋なのかあたふたと手を動かしながら、ようやく声を出す。
「と、トモエです! 普通の女の子を目指しています、よろしくお願いします!」
やや上ずった声で名乗った女性は勢いよく頭を下げる。
独特な自己紹介に誰もが一瞬言葉を失ったが、いち早く復帰したのはブラス。
「と、トモエさん、できれば職業も教えてほしいんだが……」
「そ、そうでした! 職業は魔法使い、ランクはAです。鉱石は【ボム】という魔法で削れる……と思います」
「おっ、Aランクなのか。そりゃ頼もしいな」
「……私だってもうすぐAランクだし」
シスが拗ねるようにそっぽを向いて小声でつぶやくのを、ブラスは微笑ましい気持ちで見守った。普段は大人びているが、時に年相応な一面も見せるのを彼はよく知っている。
「うし、自己紹介も終わったことだ、今回の募集についてもう一度詳しく説明させてくれ。まず、俺たちは大洞窟の奥で巨岩ヤドカリというボスを発見した。レベルは15、交戦してみたところ相手から攻撃はなんとか耐えられるんだが、HPをちょっと削ったら殻に籠って回復し始めやがるんだ」
「あ、もしかしてその殻が……」
「その通りだヒロシさん。殻が鉱石という扱いで、俺たちもハンマーとかで殴ってみたんだが、一般的な鉱石の数十倍くらいの耐久値がありそうなんだ。そこで、鉱物を効率よく破壊できる人を探してたっつうわけだ」
「まさか大洞窟のワープを解放してる生産職の人がいるとは思わなかったけどね」
基本的に戦闘力が低く設定されている生産職は戦闘職よりもレベルを上げるのが困難だ。好戦的なプレイヤーたちは皆戦闘職を選ぶこともあって、最前線についていける生産職のプレイヤーは滅多にいない。
シスが意味ありげに視線を送ると、ヒロシは笑ってごまかした。
その後もブラスは説明を続け、危険性や非常時の方針などを述べた後に改めて参加の有無を問うた。
「何度も言うが、未討伐のボスは危険度が跳ね上がる。特にヒロシさん、生産職のあんたが一番危ういだろうから、よく考えてほしい」
「心配してくれてありがとう。けど大丈夫、大洞窟まで自力で到達したし、洞窟内ではステータスが上がるパッシブスキルもある。あと個人的な目的もあるからね、参加させてもらうよ」
「わ、私も、早く普通の生活を送りたいので参加します!」
「そうか、こちらとしても大助かりだ。そんじゃあ攻略の打ち合わせをしようか」
「あんたたち、足引っ張ったら……ちょ、お兄ちゃん耳つねらないで!」
こうして個性的な面々からなるパーティが出来上がったのだった。




