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18話 最前線の兄妹 1

 浮遊大陸ウラナシアはいくつものエリアに分かれており、北へ行くほど推奨Lvが高くなっている。

 ゲーム開始からすでに3週間が経過しており、未だに多くのプレイヤーが王都にこもる中、状況を打破するために覚悟を決める者も増え始めていた。

 その中で、攻略最前線で戦っているプレイヤーたちは周りからはたして尊敬ゆえか皮肉を込めてか勇者組と呼ばれている。彼らは現在【王の林】と【女王の畑】を越えて北上し、推奨Lv.10以上の2エリア、【大洞窟】と【灰の砂丘】の攻略に当たっていた。


 そのひとつ、王の林に面する大洞窟エリアは切り立つ崖のせいで地上を進むことができないため、側面に空いた巨大な横穴から地下に入ることを強いられる。

 不安を煽る暗い環境と入り組んだ地形が視界を阻んでおり、情報が少ない現状、勇者組からも敬遠されているエリアだ。


 そんな洞窟の奥深くで勇敢なプレイヤーが2名、ロックゴーレムと呼ばれる大型の土人形と戦闘をしていた。


 一人はくすんだ金色の短髪をした長身の男、ブラス。

 ヘビーアーマーを着こんだ重戦士の彼は身の丈の半分以上を覆う盾でゴーレムの拳を受け流し、武骨な鉄ハンマーを振り上げて反撃する。


「今だ、シス!」


「【ウォータ】」


 打撃によりひるんだところに特大の水玉を打ち込むのは魔法使いの少女、シス。

 明るめの金髪を低めのお団子でアレンジした彼女は野暮ったい黒のローブも見事に着こなすモデル体型の持ち主だ。


「【スマッシュ】!」


 水を吸って脆くなったゴーレムをブラスが打撃スキルの乗ったハンマーで粉砕する。

 それが致命傷となり、ゴーレムは全身を砂に変えて崩れ落ちていった。

 2人は他に敵がいないことを確認し、小さく息を吐く。


「ナイス、お兄ちゃん」


「おう……ってシスぅ、俺にまで水かけるのやめろって!」


「少しかかっただけじゃない。あんた水泳選手でしょ?」


「濡れた服の感触が嫌なんだよ! ていうかさっきからわざとやってねぇか?」


「まさか。必要な犠牲よ」


 恵まれた体格の男とモデル体型の少女は並ぶと様になるが、交わされている会話がそれを台無しにしていた。

 2人は実の兄妹であり、ゲーム内で合流してから2人組パーティ《ブラスターズ》として共に行動している。


 なぜ2人が大洞窟にいるのかというと、冒険者ギルドのクエストで素材集めをしているからだ。大洞窟関連のクエストを受ける人が少ないためか、報酬が他より高めになっている。

 ブラスが鉱石に有効な打撃武器を持っているので、採掘による小銭稼ぎも兼ねていた。


「お、昨日見た分かれ道だぜ。今日は左行ってみるか」


「そうしましょ。そろそろ神殿が見つかるといいけど」


 何日も通っているうちに環境や魔物に慣れてきたため、少しずつ探索範囲を広げるようにしている。

 地形や魔物などの情報は攻略スレに逐一書き込んではいるものの、暗視系スキルが必須なこともあってか他のプレイヤーを見かけることは滅多にない。



 初めて進む道ということでより警戒していた兄妹だが、通路の端におかしなものを見つける。


「この岩、貝殻の形じゃねぇか?」


「本当ね。化石かしら」


「化石なんだとすると、ここは昔海底だった可能性があるな」


「ゲームだし、そんな深い意味はないと思うわよ」


「それもそうだが……。採掘ポイントみたいだし、割ってみるか」


 そんな考察をする2人だったが、すぐにその考えを改めることになる。

 ブラスが貝殻に近づくと突然HPゲージが現れ、中からハサミを持った赤色のヤドカリが殻を浮かせながら出てきたのだ。


「うおっ、魔物だ! 【スマッシュ】!」


 叩く気満々だったことが幸いして先手を取れたブラスだが、ハンマーはヤドカリのハサミに塞がれる。それでも打撃は甲殻類に効くようで、ハサミにヒビが入っていた。


「岩ヤドカリ、弱点は確か……炎ね。お兄ちゃん、時間稼ぎよろしく」


「まかせろ! 【シャウト】!」


 王都で読んだ魔物図鑑の内容を思い出したシスが炎属性の魔法をチャージし始める。彼女の場合詠唱などはせず、スキルを予約してイメージを練りながら待つだけである。

 すぐに撃つこともできるが、OLWのスキルは一定時間の溜めを経ることで最大の効果を発揮する。魔法スキルはフルチャージまでの時間が特に長く設定されており、威力の変動も大きい。

 ただし魔法の場合チャージ中に動くとスタミナ消費が激増するというデメリットがあるため、前衛のブラスが敵を挑発スキルなどで引き付ける。これが〈ブラスターズ〉の基本戦法だ。


「どいて、【ファイア】!」


「はいよ!」


 シスが杖をヤドカリに向け、弾速と引き換えに威力を増大するイメージで炎弾を放つ。

 ギリギリのタイミングでブラスが横に避け、魔法はヤドカリに直撃し爆散した。


「よし、これは効いたろ」


「まだよ、貝殻の中に隠れたみたい」


「なら殻ごと割ればいい話だ。ハンマー万歳ってな!」


「便利よねー、それ」


 身の危機を感じ殻に引っ込んだヤドカリだが、HPゲージは残り2割に減っていた。

 殻越しにダメージを与えることはできないが、ハンマーで殴れば殻の耐久ゲージを大きく削ることができる。

 度重なる打撃により殻が限界を迎え、鉱石のドロップと共にヤドカリが無防備な状態で現れる。

 逃げようとしたヤドカリをシスが素早い【ファイア】で牽制し、続けざまにブラスがむき出しの腹に鉄槌を下した。

 急所を叩かれて力尽きたヤドカリは口から泡を出しながら消えてゆく。


「ぷはー、単体とはいえ、やっぱ初見の敵は緊張するぜ」


「それにしては最後、気が緩んでいるように見えたけど?」


「……あー、悪い。テンション上がっちゃって」


「はぁ、いいわ。それよりヤドカリの倒し方を決めておきましょう」


「そうだな。近づくまで動かなかったし、事前にスキルをチャージして……」


 戦闘後、より安全で効率のいい討伐方法を考え、次の戦闘で実行する。当たり前のことかもしれないが、打ち合わせを徹底するのがこの兄妹の強さと自信につながっていた。


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