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17話 鉱山王と新人

 王都オルデイの職業訓練所には、過去の偉人たちの魂が眠る魔法の大鏡が存在する。その鏡に力を求める若人が足を踏み入れると、適した英霊から知恵を授かることができるという。


 新たな若人に応え目覚めるは英霊の一人、鉱夫の導き手ドルノワイ。

 小さめの身長にそぐわない巨大なツルハシを背負い、その卓越した筋肉を誇る半裸の老ドワーフ。その正体は土の都の初代首長にして、数多くの鉱脈を発見、及び採掘の指揮をした功績から鉱山王の異名を持つ傑物である。

 その筋肉は晩年でも衰えを見せず、死の間際までツルハシを振るっていたという。


(ほほっ、今度はどんな若造かのう。骨のあるやつだとよいのじゃが)


 ドルノワイは立派な白髭をさすり、巨大な坑道を模した空間で鏡に向き合う。

 やがて現れたのは容姿端麗な茶髪の青年だった。


「よく来たのう。ワシは鉱山王ドルノワイじゃ」


「ヒロシです。どうぞよろしく」

 

 ヒロシと名乗った青年は小さく一礼する。礼儀正しいのは良いことだ。


「さっそくじゃが、なぜ鉱夫という職業に興味を持ったのか聞いてもよいかの?」


「暇つぶしです」


「ほほっ、そうかそうか。鉱夫が暇つぶしか。ついてきなさいクソガキ」


 ドルノワイは笑顔のまま青筋を浮かべて壁際に移動する。

 何の変哲もない壁にツルハシを勢いよく振り下ろすと、音を立てて崩れ落ちた先は崖になっており、下には溶岩が流れる洞窟が広がっていた。


 ロープを伝って降りると一気に気温が高まり、岩肌には肉でも焼けそうなほど赤みを帯びた箇所が見受けられる。間違っても初心者の鉱夫を連れてきていい場所ではない。


「うへぇ、暑すぎませんか?」


「良質な鉱石は過酷な環境にあるものじゃ。鉱夫はそのような環境でひたすらツルハシを振るうため、忍耐力が必要になる。若造、いつまで耐えられるかのぅ」


「この性悪ジジイ……」


 ヒロシは恨めしそうな声でにらみつけるが、ドルノワイは鼻であしらって解説を始めた。


「鉱夫はCランクの時点で【洞窟適応・小】と【岩場適応・小】の2つのパッシブスキルを持っておる。その名の通り、洞窟や岩場にいると全体的な能力が上昇するものじゃ。どちらも採掘に向いている場所で便利じゃろ」


「その2つのスキルの効果って重複しますか?」


「重複はせん。適応系のスキルは基本的に、条件を満たしているものの中で一番効果の大きいものだけが発動する。状況に応じて付け替えるがよい」


「へえ、勉強になります」


 この鏡は職業の訓練を目的としているため、嫌がらせはしても指導は真面目にするドルノワイであった。


「では、採掘の説明じゃが、鉱夫に必要なのは力じゃ。ステータスの筋力(POW)はもちろん、それを最大限発揮する体の使い方も重要じゃ。体幹を意識し、体全体を使って体重を乗せるように振り下ろす!」


 ツルハシを地面に強く叩きつけると、大きな揺れとともに亀裂が走る。

 チラリとヒロシを見ると、口では「おー」と驚いているものの、平静なまま普通に立っている。尻餅をつかせるつもりで叩いたのだが、なかなかやるようだ。


「見ての通り、力は大事じゃ。じゃが、それと同じくらい大切なのが道具じゃ。ツルハシやハンマーなどいろいろあるが、これらに用いられる素材より硬い鉱石を掘ろうとすると、道具に大きな負荷がかかる。壊れやすくなるので注意じゃぞ」


「はい」


「そして、実際に採掘するにあたり必要なものがある。知識と技じゃ」


「知識と技、ですか」


「うむ。まず知識じゃが、鉱夫の職業ランクを上げると鉱物知識のスキルを習得できる。特定の鉱物に対する造詣が深まるとともに、弱点が見えるようになるのじゃ。例えば……この原石だとココとココ、ココとかじゃな」


「この原石レベル30なんですけど……」


 ドルノワイは近くにあったD級原石の弱点をいくつか指さす。ヒロシの言うレベル云々は聞き流した。


「弱点を叩けば原石に与えるダメージが大きくなるが、正確に叩くには技が必要になる。ステータスでいう器用さ(DEX)じゃな。器用さが高いと道具が傷つきにくくなり、長持ちするようになるぞい」


「へー、そうなんですか」


「うむ。では、実際に見てもらおうかのう。まずは弱点をあえて外し、軽く叩いてみるの」


 控えめの力でツルハシが振り下ろされると、鈍い音がして原石の耐久ゲージが1割ほど削れる。


「で、次は弱点を狙って同じ力で叩くぞい」


 次の振り下ろしも全く同じもののように見えたが、より鋭い音が鳴って耐久ゲージが5割も減った。もう一度叩くと原石は粉々に砕け、光り輝く鉱石が一瞬ドロップしてドルノワイに吸い込まるように消えた。


「弱点を狙う意味がわかったじゃろ? こうして原石を砕けば鉱石が手に入る。ここで採掘しても持ち帰ることはできんが、ほれ、ワシのツルハシを貸してやるから試してみるがよい。もっとも、持ち上げられるならの話じゃが……ほぇ?」


 意地悪な笑みを浮かべていたドルノワイだったが、片手でなんなく持ち上げたヒロシを見て絶句する。しかし、その先に更なる衝撃が待ち受けていた。


「この石でいいか。弱点見えないので普通に叩きますね、えい」


 気の抜けた掛け声とともに目を向けた先にあったレベル50の原石が一撃で砕け散り、ツルハシはそのまま地面に突き刺さって小さなクレーターを生み出した。


「こ、この威力をスキルも使わずに出しよるとは……! なんて恐ろしい若造じゃ……」


「ドルノワイさんのご指導の賜物ですよ。では……暑すぎて死にそうなので失礼しますね」


「お、おぉ」


 礼を述べながらふらふらとした足取りで去っていくヒロシを、ドルノワイはただ茫然と見送るのであった。

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