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13話 王の林の試練 2

 最初に動いたのはソラヤだった。

 素早く踏み込み、巨大リスに剣をふるう。しかし、それは煙を少し散らすだけに終わった。


「……ッ! やはり物理攻撃は効きませんか。なら……【エンチャント:アイス】――【エレメントスラッシュ】」


 なんとか反撃を避けたソラヤは、氷を剣に付与して斬りかかる。剣は先ほどと同じく煙をすり抜けてしまったが、断面を凍らせることに成功する。


「効いているみたいですね」


「エンチャント便利だなぁ」


 感心しているヒロシをよそに、ソラヤは攻撃をステップで躱しながら次々と攻撃を繰り出す。凍らせる面積を増やすために剣の腹を使ったのが功を制したのか、HPの減少とともにリスの動きが目に見えて鈍くなっていった。


 しかし、リスのHPが7割を切ったあたりで変化が起こる。リスが全身を震わせると全身の氷が体内から浮かび上がり、体の表面で分厚い氷の鎧を形成した。

 霧状態の時と違い、明らかな質量で覆われた尻尾が風切り音を鳴らす。


「あれに当たると痛そうだ」


「はい、それに硬そうですね……。ですが、氷は溶かせます。【エンチャント:フレイム】」


 ソラヤはすかさず松明を取り出して炎のエンチャントを施し、氷で覆われた尻尾の攻撃に刀身を合わせる。ソラヤは後ろに弾かれたが、尻尾の鎧には剣に溶かされた跡がくっきりと残っていた。


「うぅ、腕がしびれてしまいました……!」


「姫様、炎なら俺が。【クイックファイア】」


 手のひらから撃ち出された炎弾がリスを飲み込む。

 威力を半分以下に抑えたにもかかわらず、氷の鎧はみるみる体積を減らしていき、のたうち回るリスのHPも残り3割を切った。


「な、ヒロシ殿、魔法使いだったのですか!?」


「剣士だよ。たまたま炎魔法を覚えていただけのね」


 そのままHPを削り切れればよかったのだが、案の定というべきかリスの全身が赤く燃え始めた。離れていても熱が伝わってくるあたり、触れるだけでダメージを受けてしまうだろう。


「こうなったら炎も剣も効かなそうだね。姫様、頼める?」


「はい、鎮火なら任せてください。【エンチャント:アクア】」


 木製の水筒を要いたエンチャントでソラヤの剣が多量の水を纏う。

 リスの攻撃を巧みにかわしながら剣を振るい、炎の体毛から熱を奪っていった。


 それからどんどん炎の勢いが弱まっていき、やがて火が消えて真っ黒になったリスは天を仰ぎながら消散した。

 同時に巨大クルミが地面に落ち、ヒロシたちの足元に転がる。


「ふう、無事倒せましたね」


「姫様のエンチャント、大活躍だったね」


「そ、そんな、ヒロシ殿の炎魔法のほうがすごかったです」


「姫様への想いを魔法に込めた結果だよ。君を一目見たその時から、俺の心は炎のように――」


「ヒロシ殿、たまに言動が気持ち悪いです」


 ヒロシは無言でクルミを拾い、それを頭に打ちつけた。



 石碑のあった場所に戻ると、自動でインベントリのリストが開かれた。黄金のクルミに加え、黄金のニンジンがなにやら点滅して主張している。

 まずはニンジンを置いてみると地面に取り込まれ、入れ替わるように数本のニンジンが生えてきた。見た目も大きさも一般的なニンジンで、品質はE級だった。


 収穫したニンジンをソラヤと半分に分け、いよいよ本命の巨大クルミを植える。

 すると地鳴りがして地面が割れ始め、ヒロシたちは慌てて飛びのいた。


 地面から勢いよく大きな芽が突き出し、それはみるみる高く太く成長して若木へ、そして最終的に巨大樹となる。


「あっという間に木になっちゃいました……」


「根元に隙間があるね。ここから入れってことかな」


 根っこのアーチをくぐると、中は樹洞になっていた。発光するコケや花々によって幻想的に照らされており、赤、青、紫といった様々な色合いの蝶や蛍が静かに舞っている。


「わぁ、美しいところですね。見たことのない生き物がいっぱいです」


「姫様もとても……いや、なんでもない」


 楽しそうにはしゃぐ少女はこの小さな世界の主役のようで、その美しさを言葉で表すのは無粋だとヒロシは判断した。


「あれはなんでしょう?」


 ソラヤが指さした花畑の中心には、不思議なことに剣の柄がひとりでに浮かんでいた。木製のシンプルな柄だが、刀身の部分が見当たらない。


「剣……なのか?」


「刃の部分がないですね……」


ソラヤが近づくと、柄は呼応するように淡く光り始めた。彼女が恐る恐る手にすると、閃光が洞内を真っ白に染め上げる。


「うっ、これは一体……?」


「上だ、天井から何か来る!」


 敵かと身構えたヒロシだが、見えてきたのはこちらに伸びてくる樹木の枝だった。

 枝先がソラヤの持っていた柄に触れると吸い込まれるように消えてゆき、枝の奔流が際限なく押し寄せてくる。それは徐々に刃を形成していき、大樹が全て取り込まれたころには片手で持てる長さの木剣になっていた。

 最後に黄金のクルミが降ってきて剣先に刺さると、剣を包み込むように変形して輝かしい鞘になった。


「びっくりしたー。派手な演出だなぁ」


「この剣、鞘に王家の紋章が刻まれています。も、もしかすると、伝説上で初代国王が持っていたとされる聖木剣かもしれません。ヒロシ殿、いります?」


「いやいや恐れ多いというか、俺が使ったらバチが当たるって。王族の遺産なんだから姫様が使うべきだよ」


 震える手で剣を押しつけようとしてくるソラヤを突っぱねる。初期装備で魔王を倒せるのだから、装備集めに必死になる必要もない。


「でも、それにしてはずいぶんあっさり手に入った気がしますね」


「確かに。まあ貰える物はもらっておけばいいんだよ……って、姫様、なんか輝いてない?」


「またお世辞ですか? ……あれ、本当ですね」


 思えば、聖剣を手に入れた瞬間すぐにでも逃げ出すべきだったのかもしれない。

 大樹の演出に気をとられていたヒロシたちは、今頃地響きがしていることに気づく。


 いつの間にか霧は晴れており、木漏れ日に満ちた林の木々から飛び出してきたのは、以前林で見かけたことのある魔物の数々だった。


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