12話 王の林の試練 1
レイナクエストの期限まで残り1日を切った。
ヒロシの努力(?)により好感度は上がっているはずだが、クエストクリアの報告はまだない。好感度100まであとどれくらいか確かめる手段がないので不安だ。
連日草原を歩き回ったことでソラヤはLv.6まで成長し、そろそろ狩場を移そうという話になっている。
早朝にソラヤと合流したヒロシは草原を北西に横切り、【王の林】入り口の神殿に来ていた。
他プレイヤーの情報によると北東にも【女王の畑】という同じ推奨Lvのエリアがあるそうだが、虫系の魔物が多いらしく不人気だ。
「わぁ、これが林ですか……。こんなに木々が集まっていると、なんだか圧倒されてしまいますね」
初めて草原に出たときとは違い、多少余裕ができたらしいソラヤは木々を見上げて感想を述べる。初めて見る光景に興味津々といった様子だ。
ソラヤは神殿に浮かぶ宝石(デイ・ストーンの欠片というらしい)に触れ、ワープ先に登録する。これで帰りが楽になった。
「草原と違って視界が悪いから、奇襲には気をつけよう。俺は後方を警戒しておくよ」
「はい。では、わたしは前方を」
落ち葉を踏みながら静かな林を進んでいると、ソラヤがLv.6のボアを見つけた。黒っぽい毛の生えたイノシシで、鋭い2本の牙が脅威だ。
「こちらには気づいていませんね。もう少し近づいてから仕掛けます」
「おー、スライムに怯えていたのが嘘みたいだ」
「あ、あれは忘れてください。もう慣れましたから」
ソラヤは恥ずかしそうに返したが、箱入り娘が1日でこの変わりようなので戦闘の才能があるのかもしれない。技量はもちろん、心構えの面でもだ。
木々に隠れながら忍び足でボアに近づいたソラヤは、あと10メートルというところで一気に駆け出した。
音に気付いたボアが振り返るが、遅い。
「【スラスト】!」
飛び込んだ勢いのまま放たれた刺突攻撃がボアの首を貫く。
悲鳴を上げたボアは反撃もできずに絶命し、粒子に還っていった。
「ふぅ、やりました」
「一撃か。絶好調だね」
「急所を突けましたから。それにボアの一番の脅威は突進なので、こちらから距離を詰めてしまえば怖くありません」
静かに剣を鞘に戻しながらソラヤは少し得意げに説明する。幼いころから人一倍読書に励んでいた彼女は、その知識を存分に生かしていた。
「今更だけど、姫様ってどんな職業なの? 見た感じ前衛だけど」
「巫女見習いという王族専用の職業です。なんでもできる万能な職業なので、お姉様のように前線で戦う巫女もいれば、後方からの支援に専念する巫女も過去にいたそうです」
「じゃあ姫様は前線で戦う巫女ってことか」
「はい、攻撃系のスキルを多くつけています。その、お姉様に憧れていて……強くて格好いい巫女になりたいんです」
ソラヤは少し照れながら言う。
これはヒロシも初めて知ったことだが、NPCも制限付きでメニューを開くことができ、自身の職業とステータス、そしてスキルを確認することができる。
NPCはこの世界がゲームだと知っているわけではないが、レベルなどといったシステムを当たり前のものと認識しているのだ。
「俺の職業は剣士だけど、そのうち他の職業も試してみるつもりだよ」
「そうなんですか?」
「うん。いろんなことを試したいんだ」
「なるほど、視野を広く持ち、様々な可能性を模索しているのですね」
尊敬のまなざし向けるソラヤだが、本人はいずれ生産職でなんちゃってスローライフを楽しみたいだけである。
2人は再び気を引き締めて進み、鹿や熊などの動物を元にした魔物を協力して倒していく。数匹の群れにも対応できるようになり、ソラヤのレベルも少しずつ上がっていった。
「だいぶ奥まで来たね。まだ行けそう?」
「はい、ヒロシ殿のおかげで安心して戦えます。ところで、あちらの方角……なんだか見通しが悪くなっている気がしませんか?」
「本当だ、霧かな。前に来たときはなかったけど」
「なにかあるかもしれません。気をつけて進みましょう」
ソラヤが指さした方向に進むにつれ、どんどん霧が濃くなっていった。
警戒を強めたものの、魔物の気配はない。
不気味に思いながら歩いていると、少し開けた場所の中央に古い石碑が立っていた。
石碑には太陽を象った紋章が彫られており、その下にヒロシの見たことのない文字が書かれていた。
「これは……王家の紋章です。そして、この文字は古代オルデイ語でしょうか」
「読めるの?」
「はい、少し。ええと、『黄金のクルミを植えろ』だそうです」
「なんだそりゃ」
「わたしもよくわからないですが、探してみましょう。黄金なら目立つはずです」
「この霧じゃ大変そうだけどな……」
まとわりつく霧を肌で感じながら、ヒロシたちは石碑の周囲の地面をくまなく探し回る。すると、木々の隙間を真っ白な小動物が横切るのを見かけた。
「わ、かわいらしいウサギですね。追いかけてみますか?」
「何かヒントなのかもしれないね。倒したらクルミ落としたりするかな?」
「できればそれは最終手段にしてほしいです……」
すばしっこく跳ねるウサギを追いかけていると、ウサギは地面にある小さな穴に飛び込んだ。
残念そうな顔をするソラヤをよそに、ヒロシは穴に手を突っ込んで探る。なにか硬い感触があったので引っ張ってみると、それは金色に輝くニンジンだった。
「……ニンジンかぁ」
「あ、あとで必要になるかもしれませんし、取っておきましょう? それに、クルミを見つける方法もこれでわかったかもしれません」
がっかりしたように言うヒロシをソラヤは慌てて励ます。
インベントリに入れると、それはそのまま黄金のニンジンという名前で、エリアを離れると消えてしまう特殊なアイテムのようだった。
「クルミと言えば、リスかな?」
「はい。ちなみに初代オルデイ王には喋るリスの相棒がいたという伝説があり、王国ではリスが神聖視されているんです」
「へぇー、喋る動物か。ところで、リスも魔物に含まれるの?」
「魔物の定義は曖昧ですが、人間の脅威となりえる生物という意味では普通のリスは含まれません」
「そうなんだ」
ソラヤの知識量の多さに気づいたヒロシは、彼女との会話を通じてOLWの世界観を学んでいる。何度質問しても嬉々として話してくれるので、疑問に思ったことは何でも聞くようにしている。
探索を続けているうちに、ようやく小さな白いリスを見つけたので急いで追いかける。しかし途中でリスは霧に溶けるように消え、見失ったヒロシはそれでも周囲を探し続けた。
「あ、ヒロシ殿、あれを見てください!」
ソラヤが指さした先には木々に囲まれた小さな広場があり、真ん中にスイカくらいの大きさの巨大クルミが無造作に落ちていた。
「これが黄金のクルミか。ずいぶんとあっさり見つかったな」
「思っていたより大きいですね。とりあえず拾いましょう」
しかしクルミを拾おうとソラヤが近づいた時、異変が起きた。
クルミが宙に浮かび、煙に覆われ始めたのだ。
「きゃっ!?」
「危ない!」
ヒロシは急いでソラヤをクルミから引き離す。
驚いていたソラヤもすぐ剣を抜いて警戒態勢に入った。
霧を取り込んでもくもくと成長していくそれは、やがてリスの形へと変化した。姿こそ先ほど追いかけていたものに似ているが、その大きさはヒロシたちと大差ない。
巨大化したリスはふわふわした尻尾を振り回してこちらを見据える。不思議と気品を感じさせる所作だ。
『Enemy:聖獣の幻影 Lv.9』
「見たことのない相手ですが、戦うしかなさそうですね」
「うん、気を引き締めていこう」
『シークレットクエスト:王の林の試練 が発生しました。推奨Lv.10~
クリア条件:???
失敗条件:???
報酬:???』




