10話 ヒロシ、姫を探す
「はぁぁぁぁ」
昼、人気のない酒場でステーキを食べ終えたヒロシは盛大なため息をつく。
不定期でレイナから出されることになっている、クリアしないと死ぬクエスト――略してレイナクエストが発注されてから3日が経過していた。
1日目は贈り物の買い込みとデートスポットの下調べに時間を費やした。
なお、幼いころからプログラミングに熱中していたヒロシはイケメンのわりに恋愛経験が少ない。唯一参考になりそうなのがゲーム制作時の資料として購入したギャルゲーというひどい有様だ。
残りの2日は各地を聞き込みして回り、時には屋根の上から見下ろすなどして片っ端から探してみたものの、それらしき人物は見当たらなかった。一応金策と食料集めも兼ねて草原を駆け回ったが、同様の結果に終わる。
一応早い段階でレイナにヒントを求めてチャットを送ったのだが『クリア報酬なしでいいなら位置情報送るけどどうする?』と返された。『とても豪華な報酬だよ』『まだ6日もあるじゃないか』などと続けざまに言われるともう少し頑張ってみたくもなる。
だか、こうも見つからないといい加減諦めたほうがいいのではないかと思うようになってきた。こんなふざけたクエストでも一応命がかかっているし、別に報酬がなかろうと困りはしない。
最後のあがきとしてメニューから掲示板を開き、もしめぼしい情報がなければレイナを頼ることにする。
新しく追加されたスレの中から、女性NPCに関係ありそうなタイトルを探し出していく。
「道具屋の看板娘に癒されるスレその3、推し英霊を口説くスレ、牢屋の美人看守を困らせるスレPart2……この人たち頭大丈夫かな?」
少し内容が気になったのが悔しいが、煩悩を払って一覧をスクロールする。
すると関連のありそうなタイトルが目に入ったので開いてみた。
「どれどれ、ヒロインっぽい銀髪NPC見つけた?」
見つけたプレイヤーの話によると、苗字がオルデイの武装した女の子で、最新の目撃情報は3日前……職業訓練所に入ったきり出てこなくなったとのこと。ほぼほぼ当たりだろう。
訓練所とは職業のチュートリアルを受けられる場所で、設置されている鏡に入ると個別に異空間に飛ばされるらしい。NPCでも入れるというのは新発見だ。
ずっと異空間で訓練していたというのならどこを探しても見つからなかったことに説明がつく。
こうしちゃいられない、とヒロシは店を飛び出した。
職員NPCに確認を取り、職業訓練所の入り口で待つこと1時間。
道行くプレイヤーに時折怪訝な目で見られながらも、誰かと待ち合わせしている振りをしてごまかしていると、それらしい人物が出てきた。
その少女は武装しており、どこか緊張した様子であたりを見渡している。
『NPC: ソラヤ・オルデイ Lv.1』
名前を見て確信する。あれがクエストの攻略対象だ。
声をかけるタイミングを見計らっていると、銀色の髪をポニーテールにまとめた少女はそそくさに訓練所を離れ……近くの低木の茂みに身を隠した。
茂みから頭だけ出してきょろきょろしている少女の行動をまったく理解できていないヒロシだったが、クエストを成功させるためにもそっと後ろから近づいて声をかける。
「あの」
「ひぁぅ!? あっ、ち、違います、決して怪しい者ではなくてですね……?」
ビクッとして振り返った少女は上ずった声で慌てながら弁明を始めた。
「ああ、ちょっと気になっただけだからそんなに慌てなくていいよ」
「は、はい。ですが本当に怪しい者ではないんです。信じられないかもしれませんが、わたしはオルデイ王国第二王女、ソラヤ・オルデイです」
「……いえ、信じますとも、姫様。あなたほど美しい女性はこの世にふたりといないでしょう」
「はぇっ?」
ヒロシがあらかじめシミュレーションしておいたセリフを告げながら片膝をつくと、ソラヤから素っ頓狂な声が聞こえてきた。
ちなみにこのポーズ、羞恥心へのダメージが尋常ではない。相手がNPCでなければすぐにでも悶え死んでいたところである。
「そ、その、頭を上げてください。今は王女としてではなく、一人の戦士としてここにいるつもりです。どうか隣人のように接してください」
「わかった、君がそう言うのなら努力する。けど、花のように綺麗な君を特別扱いしないのは難しそうだ。どうか花束を贈らせてほしい」
好感度上げの基本――贈り物。ゲームによってはこれをたくさん渡すだけでヒロインがプレイヤーのことを好きになる。
しかし、この作戦には誤算があった。ヒロインに高度な人工知能が搭載されたこのゲームでは、物を渡すタイミングも重要になってくるのだ。
「あ、ありがとうございます……?」
ピンク色の花束を差し出すと、ソラヤは苦笑いを浮かべながら受け取った。ヒロシからすれば、こういう気を遣われるような反応をされるのが一番きつい。
気まずい雰囲気になりかけたので、咳払いして話題を変える。
「それで、一国の姫がこんなところでどうしたのかな?」
「え、ええとですね、仲間を探しているのですが、以前冒険者に話しかけたときに少し怖い思いをしまして……。それで草陰からこっそり話しやすそうな人を探していたんです」
「ごめん、同業者が迷惑かけたね。ちょっと事情があってみんな気が立っているんだ」
いきなりデスゲームが始まればNPCにつらく当たるプレイヤーもいるだろう。怖がるのもうなずける。
「ヒロシ殿は落ち着いておられるのですね。よろしければ、わたしの話を聞いてもらえないでしょうか?」
「俺でよければ」
「その、わたし、街から出たことがないんです。剣とも魔法とも無縁で、ろくな経験もなくて……それでも、強くなってみなさんを守りたいと思っています。おかしい、ですか?」
「いや、とても立派だと思うよ。心から応援する」
「あ、ありがとうございます。それで、その、お願いしたいことがあるのですが……」
声が尻すぼみになりながらソラヤは不安そうに聞いてくるが、それは無用な心配だろう。ヒロシは好感度を稼ぐべくイエスマンに徹しているのだから。
「わ、わたしと一緒にレベル上げしてくれないでしょうか?」
「もちろん。姫様にお供できるなんて光栄だ」
「本当ですか! 感謝しますヒロシ殿、この恩は決して忘れません……!」
パァァ、と顔を輝かせるソラヤを見て、ヒロシは内心でホッとした。
『ユニーククエスト:第二王女のおとも が発生しました。推奨Lv.5~
クリア条件:ソラヤ・オルデイを守り抜く
失敗条件:???
*ソラヤ・オルデイは稀に強力な魔物を呼び寄せることがあります
報酬:???』




