大森夫妻
「ええ……?」
いささか大仰ながら自分の名前を全肯定されて、牧島煌輝は戸惑っていた。今まではだいたい、明らかに困惑した感じか、同情した感じか、でなければ露骨に嘲笑ってくるかだったのだ。肯定するにしても、
「まあ、世の中にはいろんな人がいるから……」
的に曖昧な一般論で済まされた。なのに目の前にいる<大森夫妻>は、全力で全肯定してくる。
「名前というのはね、親から子へのギフトの一つなんだ! たまに好ましくないギフトを送られたりってこともあるけれど、それを活かすかどうかは送られた側の問題なんだよ! 迷惑だと思うか、送ろうと思う気持ちそのものに感謝するかはね! 感謝できないならしなくていいけど、うん、でも<ふぁんたじあ>という名は、僕は素晴らしいと思う! 僕にとっては素晴らしい名だと思う!」
「ええ! 彼の言う通り! あなたはこの世に一人しかいない。そのあなたに煌くような名前が与えられたのは、これはもう奇跡なんです!」
と。
正直、まるで宗教か何かのようだとも感じた。嘘くささしかそこには見いだせなかった。けれど、少し、ほんの少しだが、自分の名前を『素晴らしい』と力強く言ってもらえたことは、嬉しいと感じないでもなかった。
ただ同時に、
『宗教にハマる時って、こんな感じかも……』
とも思ってしまった。だから露骨に喜ばないようにしなくちゃと思った。さらに大森夫妻は、
「今日はゆっくり寛いでいってほしい!」
「義綱、今日はみんなは勉強しに来たんだよ。寛いじゃダメじゃない」
「あ、そうか! これは失敬!」
などと笑顔で告げて、海美神の部屋へと向かう三人を見送ってくれた。
そうして、
「どうぞ、入って」
海美神に招き入れられた部屋は、水色で統一されたとても優しい雰囲気のそれだった。きちんと整理整頓されていて、まるでアニメにでも出てきそうな清潔でいい匂いのする部屋だった。なのに、
「私の部屋ってことにはなってるけど、ほとんど使ってないんだ。私物を置くための部屋って感じかな。いっつもパパとママと一緒にリビングにいるし、勉強もリビングでするし、寝る時はパパやママと一緒だから」
と言う。整理整頓されているのは、普段はあまり使っていないからということだ。
壁と一体化した大きな本棚には漫画がぎっしりと並び、本来は勉強机らしいものの上にも漫画が並んでいる。
「……」
「……」
自分達が、それこそアニメなどの中でしか見たことのない光景に、琴美も煌輝も唖然としていたのだった。




