家よりはまだ居心地がマシ
牧島煌輝のそのような様子など露とも気付いていなかった琴美は、そのまま大森海美神と共に教室に向かった。そうして二人が親し気にしている様子を、登校してきてたまたま目撃した他の生徒も、
「え? なにあれ?」
「どういう組み合わせ?」
「なんで?」
と戸惑っていた。
あくまで二人のことを知っている生徒だけだが。
ちなみに海美神は遅刻しないように十分ほどの余裕をもって登校することを心掛けているので、実はまだ生徒はまばらだった。そうでなければもう少し騒ぎになっていたかもしれない。
一方、煌輝の方は、同居している母親とも、『父親よりはまだマシ』と思っているだけで決して仲がいいわけではなく、『家に居場所がない』『家にはいたくない』という理由で早々に家を出るようにしていた。学校の方が若干とはいえ居心地がよかったのだ。
『家よりはまだ居心地がマシなので学校にいる』
というタイプでもあった。
その、『家よりはまだ居心地がマシ』という理由の一つに、釈埴琴美の存在があったのは、まぎれもない事実なのだと思われる。
その後の煌輝は明らかに不機嫌な様子だった。他の生徒とのおしゃべりに夢中でつい彼女にぶつかった生徒に対して、
「……!!」
まるで猛獣のような恐ろし気な視線でギロリと睨み付けた。
「あ、ごめ…ひ……っ!?」
ぶつかった方の生徒は軽い感じで『ごめん』と言おうとしたが、煌輝の視線に体が竦み声が出なくなったようだ。
「怖……殺されるかと思った……」
煌輝がなぜか教室を出て行くと、思わずそう呟く。
「なんなの、あれ……?」
他の生徒も訝し気に口にした。
そして教室を出て行った煌輝は保健室に行ってベッドに横になり、シーツを頭からかぶってしまった。そうしてないと爆発してしまいそうだったのだ。自分の中に湧き上がってくる<何か>が。
養護教諭も、彼女が<要注意>とされる生徒であることは把握しており、敢えて理由を問いただすことはしなかった。まだ余裕のある生徒だったら理由を探ろうともするものの、煌輝の場合は、こうやって、
『普段と違う行動をする』
時点ですでにかなり状況は深刻であるとは理解されていた。彼女は、凶暴な自分自身を飼い慣らすために、基本的には『決めたことを決めたようにする』ことを心掛けていた。そうすることで己の中にある衝動から目を背けていたのだろう。
それが破られたのだ。
となれば、収まるまでこうやって自分の殻に閉じこもるしかなかった。
他人にはまったく理解できないだろうが、彼女は彼女で、この世と折り合いを付けようとしていたのである。




